桜散る夜、また君に逢えたら。 (ページ21)

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九話ページ21

「お袋ッ！！！」

夜の静寂を破るかのように水木は叫んだ。すでに床についていた母親は水木の声に思わず飛び起きる。慌てて玄関の扉を開けると、目についたのは汗だくになって荒々しく呼吸をする息子の姿。背には孫である鬼太郎を背負っている。夜泣きした鬼太郎をあやすために家を出ていったというのに、いざ帰ってきたかと思えば、苦しそうに息をする息子の腕の中には見覚えのない子供が抱かれていた。痛々しい傷口からは今もなお血が溢れ、水木の服にも子供の血が滲んでいく。

「な、なんだ、どうしたんだい！？」

「話は後だ！！それより俺の救急鞄取ってくれ！！」

乱暴に履き物を脱ぎ捨て、自室の襖を開ける。すでに敷いてあった布団を足で退かし、畳の上に子供を寝かせた。

「水木！！なんの騒ぎじゃ！！」

「目玉。悪い。しばらく鬼太郎を見ててくれ。」

寝ている鬼太郎を母親の部屋に寝かせ、目玉にそう伝える。

「あの子供は？」

「まずは手当が先だ。出血が酷い。鬼太郎を頼む。」

水木が鬼太郎の頭を撫でてそういうと、目玉は「あいわかった。」と答えた。自室に戻り、寝ている子供に目をやる。再会したというのに見ている方が痛々しくなってしまうほど傷だらけになっているのを見て、水木は思わず舌打ちをした。こんな姿になってしまったなんて、あんまりだろう。そう思いながら水木は子供の服を引っ掴むと勢いよく破いた。

「(外傷が思ったより酷い。擦り傷も多いが、特に多いのは打撲痕だ。骨をやってないと良いんだが･･････)」

肌に触れて状態を確認する。ぴくりとも動かず、伏せられた翠玉。ああ、確かにあの日の子供だ。コッペパンを分け合ったあの子供だ。水木の手が子供の髪に触れる。目にかかっていたのを退かしてやれば、サラリと静かに落ちていった。