106話 ページ14
今年は例年より少し早い桜の開花
下を見れば桜の花びらが点在する
入学式での挨拶を終え、きっと今頃は敬人が自分を探しに走り回っていることだろう
どうせすぐにまた海外に行かなければならない
少しくらいはゆっくりさせてくれと、桜の木に寄りかかり
日差しを避ける
「(今年の新入生は、今の学院を見てなんて思うんだろうな。)」
期待に胸を膨らませる一年生をガッカリさせてしまうだろう
そんな考えがよぎった
すると、なにやら声が聞こえた
警備員らしき人が塀の向こう側で焦っているようだった
トラブルか
アイドルを一目見ようと不正に侵入しようとしているのか
一応確かめておこうと木陰から身体を出した
「ちょっと君ーーー」
警備員の声と同時に地面には影ができた
陽の光を背に塀の上から見下ろす人物
やがてそれはこちら側に飛び降りた
逆光でよく見えなかった姿ははっきりと目に映った
髪も肌も白く、青紫の瞳が目立って輝いている
思わず見惚れてしまうほどに彼は美しかった
飛び降りる瞬間がゆっくりに感じられる
そんな時、チラッと彼がこちらに目を向けたような気がした
「…!」
トンと軽やかな音を立てて着地すると彼はそのまま校舎へ走っていってしまった
目があったのは気のせいだろうか
ドキドキと鼓動を打つ心臓を自然と押さえていた
「………は…。」
ネクタイの色からして新入生だった
入学式は既に終わっている
「まったく…せっかちだなぁ。」
そう警備員が向こう側で言った
「(…匂い…あいつの…。)」
ふんわりと香る匂いが鼻を掠めた
柔軟剤か、シャンプーか、香水か
なんだか少し顔が熱くなった気がした
「(…いや、うそだろ……。
おいおい…勘弁してくれ……。)」
ヘナヘナと力なく座り込んだ
脳裏では何度もあの光景が蘇り、彼の姿が頭から離れずにいた
「朔間さん!!良い加減仕事にもど……っ!!
なっ!?
おい、どうした!
具合が悪いか?」
「……あぁ…ぃや。」
「日に当たりすぎなんだ。
校舎に入るぞ。」
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作者名:アニット9 | 作成日時:2022年12月25日 21時