部室へ ページ10
「嫌だ」と部室の前に来るなり言い放つと、両手をポケットに入れて一向に入ろうとしない。ぷいっとそっぽを向いたまま階段の手すりにもたれ掛かる彼に、どうしようかと頭を悩ませた。
大島くんに、「一応綺麗にしてるよ」と言ったら少し睨まれた。僕は部室の扉を開けたまま、中に入って、持っていた鞄を近くにある椅子に置く。ちらりと大島くんを見ると、こっちを見ていたのか目があった。
「やっぱ入りたいんじゃ〜ん。懐かしいでしょ、相変わらず狭いけど」
全く素直じゃないんだからーと思いながら、腕を取り「ちょっ、いいって!」と暴れる大島くんを部室の中へと引き入れる。
大島くんは居心地悪そうに顔を歪めると、部屋をゆっくり見渡し、ある物に眼を止めた。
「これ、去年なかっただろ」
歩み寄り、被せてあった紺の布を捲り上げてドラムをみた。やっぱり、と大島くんは呟いた。
「さすが、それ最近買ったやつ」と答えて、漢検準二級の合格祝いねと付け足した。去年あったドラムは、多分スプレーでめちゃくちゃに色付けされて、フロアタムも折れて使えなくなったはず。
僕のキーボードは、幸い音がずれただけで、楽器店に行って直してもらった。
「大島くんはベースだっけ?」
「………サブ程度しか」
え。毎日練習してたのに?と言うと、「不器用なんだよハーゲ」と吠える。
不器用なのにベースやるの?
と疑問を隠しきれない。
「ベースはたっくんが持ってるんだけど………」
黒板の横に立て掛けてあるそれを見る。
少しだけ使っちゃうねたっくん、と心の底から詫びて黒のケースからベースを引っ張り出して、大島くんに渡した。久しぶりの感触に手が震えているのがわかる。僕は大島くんのベースがそれはもうヘッドがばきんばきんになっていたのを思い出す。
あれは心もばきんばきんになるよねぇと思いながら、複雑な顔をする大島くんに眼を向ける。多分たっくんの勝手にひっばりだしたから悪いと思ってるんだろう。急に律儀。
「弾いちゃってよ。たっくん、そんな怒んないし傷付けても弾けたら問題ない系男子だから」
なんだそれ、と小さく呟いてゆっくり弦を弾いた。重く低い音が部屋に静かに響き渡る。少しずつ音が連なっていき、僕はそれに耳を傾けた。
一通りコードを弾いた所で
「大島くんはさぁ、」
と声をかける。
大島くんは気付いたように弾く手を止めた。
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まきゅもきゅ@九松(プロフ) - 結咲。さん» こちらこそありがとうございますぅぅぅぅぅ!貴方様の作品もずっと応援しています! (2016年9月25日 19時) (レス) id: dd6ee1b572 (このIDを非表示/違反報告)
結咲。(プロフ) - まきゅもきゅ@九松さん» ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!泣 ぜひぜひ作品見に行かせていただきます! (2016年9月25日 18時) (レス) id: aa201165a1 (このIDを非表示/違反報告)
まきゅもきゅ@九松(プロフ) - 結咲。さん» お邪魔させていただきました!すごく興味深いですね!思わず入り込んでしまうような・・・!宣伝もさせていただきますね!これからも頑張ってくださいね!私の作品もよければ見てって下さいね(笑) (2016年9月25日 17時) (レス) id: dd6ee1b572 (このIDを非表示/違反報告)
結咲。(プロフ) - ねこまんま 21号さん» ありがとうございます!(泣)ウレシすぎて死んでしまいたい!(泣)更新頑張ります! (2016年9月18日 12時) (レス) id: aa201165a1 (このIDを非表示/違反報告)
ねこまんま 21号(プロフ) - 面白いです!! 更新、頑張って下さい!! (2016年9月18日 11時) (レス) id: 0270f76ad4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:結咲。 | 作成日時:2016年7月26日 14時