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藍啓仁に引き止められ茶を出された。
啓仁「つかぬことを聞いてもよいか？」
藍先生の隣りにいた沢蕪君をちらりと見てから返事をした。
「はい」
啓仁「若君は、よく朱春雷に似ておられるな。」
「えぇ、よく言われます。」
みな、口を揃えて言うだろう。
啓仁「その才も引き継いでおられる。」
「ありがたきお言葉に、感謝します。」
上辺だけの礼を言う。
見たこともない父親に興味すら湧かない。
茶に映る自らの姿に、こんなふうだったのかと父親を浮かべてみるが、いまいちパッとしない。
啓仁「みなは驚いただろうな、朱春雷に子がいたなど聞いたこともない。」
「えぇ…それもそのはず、父は生前私達の正体を朱家に隠しておられました。
当時の父の体裁から考えれば当然のことでした…」
優秀だとみなから敬愛され、家を継ぐことを強く願われた。
「町娘の母を家に入れるのは難しい話でした。」
なんの後ろ盾もない、ただの町娘に朱家の未来を担う者の妻など務まるわけがない。
その身分差を考えれば、致し方がない。
「…人目を避け、侘びしい一軒家で母はひっそりと暮らしていました。
父が弟子を寄越したときにはもう、重い体であったようです。」
あの…決して裕福だといえるわけではない、
侘びしい一軒家を思い返す。
「しばらくして、私が生まれました。
ひっそりと暮らしていた生活が変わったのは、父の死による遺書からでした。」
父の死後、遺書が朱家に託された。
「…その遺書には、私の存在が明記されていて父は私達を朱家へと望んでおられました。」
父が私達の幸せを願ったのは確かだった。
「ですが、先代当主はそれを許しませんでした。
世話をしていた弟子は御当主を謀った罪で追い出されました。」
静かに昔のことを思い出していく。
「先代が病に伏し、私達を受け入れることを認めました。」
羅漢『もう、こんなところでひっそりと暮らさなくてよくなるのです。
一緒に朱家に参りましょう』
父と羅漢は、朱家で私達が暮らすことが最善だと考えた。
だが、
その考えは間違えていた。
母は…
「母はそのあとしばらくして、亡くなりました。」
__何者かに首を切られ惨殺された。
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作者名：染子 | 作成日時：2022年1月17日 14時
