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『東京…………のこと、話してほしかった』
気づけば颯を追ってエレベーターを降りていた。颯に伸びた右手は柄にもなく小刻みに震えていて今声を出すときっと細くて弱い声しか出ないんだろうなと容易に想像できた。颯の目を見て、颯が何を考えてるのか知りたいけどそんな勇気私にはない。颯の瞳は海の底みたいに深くて、綺麗で──────────
「なんで」『……大切、だから』
「幼馴染みとして？」『……わかんない、』
「泣いてる」『……泣いてない！』
「……わかった」『……颯は全然わかってないよ……！』
──────────今はちょっと怖い。なんだか私ですら気づいてないことを見透かされそうで怖かった。ずっとスニーカーのつま先を見つめて颯に言葉をぶつける。目を見ないで、一方的に語尾を強めて、弱くてずるい人がすることだってわかってる。だけどこれが私の精一杯だった。
『颯が……東京行くって聞いて頭が真っ白になったの！何でかわかんないけど、、』
「Aは何もわかってないよ」
歪む世界が零れた一瞬、颯の表情が見えた。颯のことがもっとわからなくなった。その表情は物事を言葉通りにしか受け取れない私には難しすぎた。
『じゃあ、、教えてよ……颯のことちゃんとわかったら私のことだってちゃんとわかる』
私は颯みたいに頭が良くないから確信をつける言葉がないと不安で仕方がないの。颯の深い黒が私の黒を真っ直ぐに捉えた。吸い込まれてしまいそうで、それでも逸らすことはできなかった。
「本当は気づいてるくせにそうやって男に選択させるとこ、女のずるいとこだよ」
「好きじゃん、俺のこと」
『…………馬鹿、』
私は颯を置いてその場から走って逃げた。颯の言葉が頭の中でぐるぐると消えてくれない。きっと、ううん、絶対そう。だけどまだ気づいてほしくなかった。階段を勢いよく駆け登りバタンと大きな音を立てて玄関のドアを閉めた。乱れた呼吸を整える暇もなくその場に崩れ落ちる。颯の深くて綺麗な瞳が私を見透かしたの？
──────────私は半透明だった。
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作者名：すぅぷ | 作成日時：2019年7月26日 19時
