半透明 ページ21
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いつもそうだ。直接彼の言葉で聞きたいことに限って人づてに聞いてしまう。今回だってそのひとつにすぎなかった。私にとっては大切な幼馴染みでも彼にとって私はただの同級生でしかないのだから。そうやって何年も自分に言い聞かせてきたのに視界がぼやけて雫になったのは今日が初めてだった。頬を摘んで喝を入れる。摘んだところが赤くなっていくにつれ涙は引っ込んでいった。どうやら人間バランスがとれるように作られてるらしい。良いことがあれば必ず悪いことが起こるし、こうやってつねった頬に痛みを感じると涙だって引っ込んだ。私と颯がこんななのにもバランスとやらが関係しているのだろうか。
お母さんに頼まれたおつかいを終え、マンションのエントランスに足を踏み入れた時、胸の鼓動が早くなった。颯………………。私の声に振り向いた彼と目が合う。中学を卒業してまともに会ってなかったせいか心臓の音がうるさい。静まれ。静まれ。話したいことも聞きたいことも沢山あるのに本人を目の前にするとなかなか言葉になってくれなかった。
「声かけといて黙るの?」
先に口を開いたのは颯だった。別の人みたい。そう思ったのは随分と背が高くなっていたからだろうか。いや、きっと私たちが遠くなったから。あからさまに黙り込む私と違って颯はなんでもないみたいに普通だった。10階と12階のボタンが光る。エレベーターの狭さと静けさが怖いのか。それとも颯が怖いのか。全部私たちの関係が曖昧なせいだ。
『私たちって幼馴染み?』「なんじゃない?」
「急に何」『別に、』
なんだ、幼馴染みなんじゃん。
私たちの関係が明確になったと同時に私の中で何かが曖昧になった。颯の言葉に安心したはずなのに恐怖は消えてくれない。エレベーターが静かに止まり、颯の背中が遠のく。
幼馴染みなら尚更………………
『東京…………のこと、話してほしかった』
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作者名:すぅぷ | 作成日時:2019年7月26日 19時