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『昨日の残り物くらいしかなくて』という私の言葉なんて聞こえてないのか河村さんはカレーを頬張っていた。2日も全く飲み食いせずQuizKnockとかいうウェブメディアの仕事に明け暮れていたらしい。お腹が減ったと倒れた河村さんの家には食料という食料が何もなく仕方ない………と私の家でカレーを振舞っているわけだ。



「随分と迷惑を…………」



お腹も満たされて我に返った河村さんは反省の色を見せていた。『気にしないでください』私は自分のカレーと珈琲をテーブルに運び河村さんの目の前に座る。

こうやって誰かと夕飯を食べるなんて上京してからまるでない。少し新鮮な、でも懐かしい。こんな古びたアパートに住んでなかったらポストが錆びたとか電球が切れたとかそんな理由で外に出ることも大家さんやご近所さんと世間話をすることもなかった。それに河村さんと出会ってこんな懐かしい気持ちになることもなかっただろう。何となく河村さんの言っていた難しいことが理解出来た気がした。



『それより気をつけてくださいね!2日も飲み食いしないって相当ですよ!』

「そういえば1度今の仕事には精神的に追い込まれたことが……」

『!!ブラック企業ですか?』

「違います」



確かに今の言い方ではブラック企業ですね、なんて上品に笑う河村さんが目の前にいた。



「私の居場所です」

「長い付き合いの友人と立ち上げたものなんです。彼らの頑張りもあって今軌道に乗り始めたところで…………」



友人の話をする河村さんは私の知ってる河村さんと別人だった。目尻を下げて柔らかく笑う。大人っぽくて掴めない人だと思っていたのに話し方や表情で何もかも伝わってくる。『素敵な方とお仕事してるんですね』こんな薄っぺらいことしか言えない自分を情けなく感じるも目の前の彼がまたふわりと笑うからつられて笑顔になった。冷めた珈琲がじんわりと染みた。



「珈琲好きなんですか?」

『珈琲というよりカレーと珈琲の組み合わせが好きなんです!』

「…………………罪深いですね」



罪深い?カレーと珈琲の組み合わせは誰に話しても不評だった。罪深いとはどういう意味だろう、私の頭に?が浮かんでいることに気づいた河村さんは慌てて訂正に入った。



「いや、以前貴方と同じことを言った人がいたので」

「昔を思い出してしまう」



まただ。「懐かしくて」と笑う河村さんは私の知ってる河村さんと別人だ。河村さんの中の懐かしさを私は知らない。




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作者名:すぅぷ | 作成日時:2019年7月26日 19時

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