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『伊沢さ〜〜ん、まだですか??』
「Aちゃん大人しく待てないの〜?」
『…!馬鹿にしないでください!待てますよ!』
私がソワソワしているのには理由がある。実は伊沢さんのお家にお邪魔しているのだ。模試の採点を終えた伊沢さんがふと言った、俺が使ってた参考書いる?の言葉に元気よくいります!と答えた。今すぐ参考書を取りに行ってくれると言う伊沢さんについて行き、結局お家にあがらせてもらっているというわけだ。なんだか落ち着かずきょろきょろと辺りを見渡す。必要最低限の物しか置いてない部屋だ。何もない部屋の中で一際目立つのはスタンドに立て掛けられたギター。近寄ってギターの前に何故か正座をする。知らなかったギターが趣味とか。ギターを弾く伊沢さんを自然と想像していた。
『……、かっこいいかも』
「何が?」
『い!いや、なんでも!』
「あっぶな」
突然後ろから声をかけられ驚いた拍子にギターもぐらつく。反射的に伊沢さんの手が伸びてきてギターは守られ元のスタンドに戻された。伊沢さんの大切なギターを壊してしまいそうになり、私は顔を上げることができなかった。
『すみません』
「警戒心なさすぎ」
伊沢さんの声がすぐ近くで聞こえる。謝罪の言葉とは噛み合わない言葉に私の頭にははてなマークが浮かんだ。
「よく知りもしない男について行ったらだめだよ」
『でも………伊沢さんは知ってる人です』
「じゃあギターが趣味だって知ってた?」
「俺がいつもコーヒー飲む理由は?」
……
背中越しに伊沢さんの存在は確認できるのに何も話さないから本当にそこにいるのか不安になった。
『伊沢さ……………、ん』
振り向くと視界がぼやついた。思考が追いついていなかった。伊沢さんが私の頭を優しく撫でた時ようやく気づいた。私伊沢さんにキスされたんだ。と。
「煙草吸ってるのも今知ったでしょ?」
耳元でそう呟いた伊沢さんはきっと私の知らない伊沢さんだ。いけないものを見てしまった気がした。
『好き、………………です』
私がふと零した言葉に伊沢さんの見せた笑顔はいつもと同じようで違う。やっぱり私の知らない伊沢さんがそこにいた。ゆっくりと顔を近づけてくるのがわかるのに抵抗しないのは私の知らない伊沢さんを好きになりたいから。伊沢さんの吐息を肌で感じる度身体がぴくりと動く。私の知らない伊沢さんは大人のキスを教えてくれた。
それは確かに煙草の味がした。
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作者名:すぅぷ | 作成日時:2019年7月26日 19時