君で始まる運命 (ページ12)

今日:5 hit、昨日:0 hit、合計:34,026 hit

ページページ12

．

「…………Aさんは最初から優しいよ、」

「初めて食堂で会ったときから」

それはもう鮮明に覚えている。いつも通り遠くから眺めているはずだったのに航平が私の斜め向かい側に座ってきたんだから。それから航平がお茶と味噌汁をぶち撒けるというアクシデントに見舞われ、それを見てられなくなった私がハンカチとティッシュを差し出した。つまり合法的に接触できるというイベントが舞い降りてきたのだ。いきなりのことで何も構えてなかった私は素っ気なくその場を立ち去ったのにポンコツ航平は私を追いかけてきた。ハンカチとティッシュを返すから、と連絡先を交換して今に至る。だけど……………

『…………もしそれが偶然じゃなかったら？』

『もし、私があの日食堂にいたのも私がAランチ好んで食べてるのも全部偶然じゃなかったら？』

航平はきっと目を丸くして驚いているんだろうけど顔を上げられない。だけど私の口は止まってくれなくてアルコールが回ってるのは私の方だと気づいたのはこの時だった。

『水曜は航平が食堂に来るって知ってた。Aランチが好きなのもね。だから私も水曜は食堂に行ったしAランチを食べてたの。』

『だから偶然じゃないよ。知らぬ間に目で追ってる理由を知りたかった。気持ち悪いって思われるのわかってても好きだった。彼女がいるの知っても好きなのを諦められなかった。』

普段の私なら絶対言わない、死んでも言えないことをぽろっと話しちゃうんだからお酒は怖い。静まり返ったこの部屋では秒針の音が大きく聞こえた。

『嫌な思いさせちゃってごめん…………帰るね、』

そう言って腰掛けていたベッドから立ち上がるとズキズキと頭に痛みが走った。ふわっとした感覚と同時に腕を引かれる。ぽすり、と気の抜けた音とともにぐるりと世界は変わった。私の視界は航平でいっぱいだった。

．