〈 思案を施行する場合 〉 ページ7
.
「……」
「……」
「………A？」
気付けば、私はホテルへと戻るバスに乗っていた。
名を呼ばれて顔を上げると、隣の席に座った颯一郎が不思議そうな顔でこちらを見ている。どうやら長いことぼーっとしていたらしい。
「あ、……ごめん。なに？」
「いやこっちのセリフだけど。なに、眠いの？」
「いや全く……」
ぺちぺちと両頬を叩き、ふと息をつく。……まずい、明らかに気持ちが別のところを向いている。
原因は考えずとも明白だった。さっき、やけに真剣な顔をして突飛なことを言った大谷さん。あの人のせいで今もなお頭がこんがらがっていて。
「……あ、侍ジャパン招集おめでとう颯一郎」
「えっ、今更？」
離脱した栗林さんに代わって颯一郎が招集されたというニュースは、私たちにとってはそこそこ大きなものだった。
単純に同期の活躍は喜ばしいものである。
宇田川くんも、あと山本も仲の良い颯一郎が来て嬉しそうだったし、長くてあと2戦とは言いつつも、アメリカでの戦いが賑やかになるのは間違いなく。
「………そっか、アメリカ行くんだ」
ぽつりと呟き、背もたれに体重を預ける。
準々決勝に勝利した私たちは、準決勝を戦うべくマイアミへ向かう。
この辺は結構スケジュールがカツカツで、一度ホテルに帰ったらすぐ羽田へ向かうらしい。出国予定は数時間後の深夜。そこから14時間かけての、長い長いフライトだ。
「……なんかあれだね、勝ったんだねえ」
その瞬間を目の前で見ていたのに、いまだに勝利の実感が湧かない。……大体にして直後にあんなこと言った大谷さんのせいだと思うけど。
国際大会で海外に行くのも初めての経験だ。オリンピックだって日本でやったわけで、アメリカがどんなところなのか想像もつかず。
「アメリカで迷子になったらどうしようかな」
「可愛いから俺がすぐ見つけられるよ」
「……どこでそんなセリフ覚えてくるの？」
あまりにも率直な言葉がむず痒くて、窓の外へ視線をやった。
楽しかったWBCも、そろそろ終わりを迎える。
なのに、考えなければならないことばかりがたくさんだ。仕事のこととか、これからのこととか、……大谷さんへの対応とか、もう全部。
「……颯一郎ってさ」
「ん？」
「私のことお嫁さんにしたいって思う？」
「ぶっ」
とりあえず一般的な意見を聞きたくて尋ねれば、颯一郎が飲んでいた水を吹き出した。……流石に突飛すぎたかもしれない。
〈 広報 in 飛行機�� 〉→←〈 広報と準々決勝�� 〉
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3530人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あちちっ！ | 作成日時：2023年8月11日 14時
