〈 広報と準々決勝�� 〉 ページ6
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「………は？」
喉から漏れた声が、空気に溶けて消えた。
大谷さんは何も言わない。
口を開いた。
それでもまだ、何を言うべきかわからず。
「それ、は」
「うん」
「どういう………」
周囲の音がうまく聞こえない。
きっと動揺しているのだ、と思った。
いつもならうまく流せたのに。だって、やけに真剣な声色でそんなことを囁くから。
「わかんない？」
大谷さんが苦笑いを浮かべて、触れていた手をするりと離した。
代わりに瞳に熱が籠る。
目を逸らそうとした。
できなかったのは、戸惑っているからに他ならず。
「わ、……わかんないです」
「ふうん」
「だっ、て、そんなの後輩にわざわざ――」
「違えよ」
紡ぎかけた言葉を食い気味に遮られる。
大谷さんは困ったように眉を下げた。
どこか吹っ切れたような顔だ。きっと呆れられていることだけは確かで、でも私は、何故だかその先の言葉を聞きたくなくって。
何か関係ない話題を持ち出そうとして、でも遅かった。
のろまな喉が何かを発するより先に、大谷さんが口を開き。
「俺が言ったのは後輩として、とかじゃなくてさ」
「……」
「Aのことお嫁さんにしたいって意味の好きだよ」
今度こそ、息が止まった。
「じ、……冗談でしょう」
「違うって。何回言わせんの」
「ひ、久々に再会したから、とか、多分そんな……」
「6年前から好きだったよ」
指先まで、ぴしりと動きが止まる。
まともに働かない頭で思い起こしたのは6年前のこと。
唯一大谷さんに歯向かったあの日。口論の延長線上で、大谷さんは私に「好きだ」と言った。
「ねえ、本当に冗談だと思ったの？」
あの時、私はどうしたのだったか。
確か冗談だと一蹴して、彼から目を逸らしたのではなかったか。
「6年前から冗談なんてひとつも言ってねえよ。本当にアメリカまで着いてきてほしかったし」
「大谷さ、」
「俺、Aのこと幸せにするつもりだったんだけど」
なんてそんな、また呑み込むのが難しいことばかり言って。
大谷さんが、固まったままの私の手を取った。
引かれるままに導かれ、彼は私の手を自身の胸に置く。
6年前より厚くなった胸の奥で、彼の心臓が早鐘を打っているのが聞こえ。
「……ねえ、わかる？緊張してるの」
「……」
「頼むからもう『冗談』とか言わないで」
懇願するように言われてしまっては、私はもう、何もできなかった。
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作者名：あちちっ！ | 作成日時：2023年8月11日 14時
