〈 広報と準々決勝�� 〉 ページ5
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――結果として。
日本代表は、無事に準々決勝を突破した。
スコアは9対3。疑う余地もない大勝だが、大勢くんが最後の1アウトを取るまで、気の休まる瞬間はなかったと思う。
それほど別格の緊張感だった。
『負けたら終わり』のプレッシャーが、これほどまでに重いとは思わなくって。
「A」
試合後。
続々とダグアウト裏に引き返していく選手たちをぼうっと眺めていると、本日の勝ち投手こと大谷さんに名を呼ばれた。
視線で何だと尋ねると、彼はどかりと隣に腰掛ける。……表ではあんま近付いてほしくないんだけどなあ。この人色んなカメラに抜かれるから私まで撮られるし。
「どうだった？」
そして相変わらず会話に主語がない。……6年前から薄々気付いてたけど、この人結構俺様なとこあるよね。
「どう、とは？」
「試合だよ。ずっと難しい顔してたじゃん」
「……そりゃそうでしょ。緊張してたんです」
なんて投げやりに答え、背もたれにぐっと体重を預ける。
「だって、負けたら終わりじゃないですか」
「まあね」
「気休まる暇ないですよ。たぶん100点差ついても不安だと思います」
「はは、それは困るな」
大谷さんは笑い、私の頭にぽんと手を乗せた。
大きくて温かい手だ。ついさっきまで相手を討ち取るためにボールを投げ、相手を打ち崩すために、強く強くバットを振っていた手。
「A、このチーム好きなんだね」
その手がするりと下がって、慰めるように頬を撫でたから。
「……別にそんなこと……」
「あるでしょ。終わりたくね〜って顔に書いてあるもん」
「……」
「ふ、そう言えばいいのに。もっと長く一緒にいたいって」
すり、と頬を滑る指が心地良くて、思わず唇を噛んだ。
余計なことを言わないようにするためだ。気を抜けば、何か口にしてしまうような気がして。
「大丈夫だよ、決勝まで連れてくから」
きらきらした瞳が、楽しげにこちらを向く。
鼻の奥がツンと熱くなる感覚に、危ない、と思って下を向いた。鼻から息を吸って、込み上げる何かを堪えるように、ぎゅっと拳を握る。
「……そんなタッチみたいなこと今時言う人いたんですね」
「照れ隠しが下手だなあ」
「呆れてるんです」
「Aって結構遠慮なく物言うよね」
「大谷さんだからですよ」
「ね、俺も言っていい？」
「何がですか？」
「好きだよ」
一拍の間。
驚いて顔を上げた先に、微笑む大谷さんがいた。
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作者名：あちちっ！ | 作成日時：2023年8月11日 14時
