〈 広報と準々決勝�� 〉 ページ4
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――結局、私は試合開始の間際まで大谷さんと一緒にいた。
本当に、本当にずっと一緒だった。
先発登板前の最終調整にまで連れ回されるくらいで、これだけの時間を一緒に過ごしたのは、それこそ6年前以来である。
大谷さんは、あの頃からルーティンが変わらない。
調整に集中する彼の横で、私が黙ってメモを取るのも変わらない。
気を遣って黙っていたのに「なんかあの頃みたいだね」と茶々を入れられた時は本当に怒ってやろうかと思ったものだ。やけに嬉しそうだからそんな気も失せてしまったけれど。
「お前どこにおったん？」
――そんな大谷さんが先発する準々決勝は、イタリアとのマッチアップだ。
ここからは負けられない戦いである。どうにかして食らいついていかなくてはならないし、全く関係のない私でさえ気を引き締めなければならず。
「ん？大谷さんのとこ」
「……まだ一緒やったん？」
「うん。ごねられたから」
「ふうん……」
そんな中でやっとベンチに向かうと、待ち構えていた山本が訝しげに眉を寄せた。
……何か、山本とこうして話すのも久々だなあ。私が勝手に気まずく思ってただけなんだけど。
「あ、なんか用だった？」
「いやべつに。何でも」
「……ならいいけど」
そしてこの煮え切らない返事。……何だろう、お腹でも痛いのかな。いや普通に負けられない戦いの前だからピリピリしてるだけか。
「ふ〜〜……」
大きく息を吐き、ドームの空気を肺いっぱいに吸い込む。
ここを勝ち抜けば、次の舞台はアメリカだ。
うっかり先走って買った飛行機用の酔い止めの出番を作るためにも、チームジャパンの勝利を祈らなければ。
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19時から少しばかり遅れて始まった準々決勝は、序盤から比較的静かな展開だった。
ランナーを出すも決め手がなく、ゲームが動いたのは0対0のまま迎えた3回裏。
1アウトから優しい可愛いラブリーな近藤さんが四球で出塁した、その次の大谷さんの打席である。
「セ、セーフティバント……」
横の中野さんが苦笑いで言った言葉に、私は同じような表情で頷くしかなかった。
あのメジャーの大スターがセーフティバントを仕掛け、快足でヒットにしたどころかエラーまで誘ったのである。
「……あの人、生涯で何回目のバントなんだろ」
大して練習もしていないだろうに、一発で決めるのが尚すごい。……何が何でも勝つって、きっとこういうことなんだろうなあ。
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作者名：あちちっ！ | 作成日時：2023年8月11日 14時
