〈 三冠王の場合�� 〉 ページ27
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元より俺は、周りの奴らが抱える彼女への恋愛感情に、どちらかと言うと悲哀的な目を向けていた。
だってAさんだ。彼女を狙う人間が多いのは一目見ればわかるし、それが年々増えていくのも、Aさんを見ていれば嫌というほどわかる。
「……別に、俺に会いに来ても何もあげませんよ」
俺はそういう、叶わない恋みたいなのにはドラマ性を感じない。
失恋に意味は見出せない。想いを寄せるからには選ばれたいし、好きな人が俺以外を選ぶところは見たくない。
だから俺は、Aさんを好きにはならない。
確率的に考えて、俺が選ばれる可能性はないに等しいからだ。失恋で悲しい思いはしたくないから、自然とAさんは恋愛対象から外す。
「すぐそういうこと言う……。ほんと可愛くないよね」
「可愛がられる必要ないっすからね」
「……これでも私心配してるんですけど」
Aさんの不機嫌そうな瞳に、目を見開いた俺が映る。
これまた珍しい。Aさんは文句を言うことはあっても、選手の成績には口を出さない人だったと思うのだが。
「心配って……。別に大丈夫っすよ。確かに打ててませんけど、でも――」
「違うよ」
Aさんが不安がることじゃない。
そう続けようとした言葉は、食い気味な彼女の言葉に遮られた。
「そういう……不振とかじゃなくて！疲労とかそっちの話なんですけど」
「……はい？」
「村上くん日本シリーズ出てたし、オフも結構仕事してたし、そっからすぐWBCだし……疲れてないかなと思ったの」
Aさんは瞳を伏せ、照れているのか「山田さんとかは慣れてるだろうけど、君は違うし」と早口で付け足す。
「打つとか、打たないとか、そういうのはいいの。どうせどっかで打つってわかってるし……」
「……」
「で、……でも軽口叩けるなら心配して損した。マッサージとかしてあげようと思ったけどもう良い」
そう言うなり、Aさんはふいと顔を背ける。
俺は何も言えずに彼女を見た。何故か哲さんの姿が浮かんで、消えて、また浮かぶ。
哲さんはいつも彼女を見ていた。
誰かと一緒にいる彼女を見ていた。それで顔を顰めて、ちょっと寂しそうな顔をする。
それを見る度俺は、そんなに悲しいのならやめれば良いのにと思って。
思って、俺は。
(………いや、笑えねえって)
Aさんのことは好きにならない。
そう思った数分前の俺が、どっかで溜息をついた、ような気がした。
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作者名：あちちっ！ | 作成日時：2023年8月11日 14時
