〈 三冠王の場合�� 〉 ページ26
.
「ぶはは、それで結局2人に怒られたんすか？」
「何から何まで村上くんのせいですけど……？？」
この日の全体練習が始まって、少しした頃。
Aさんから事の顛末を聞いた俺は、咎めるようなAさんの視線に目を逸らした。そりゃ俺も勝手にストーリー上げて悪いとは思ってるけど。
「しゃあないっすよ。そもそもあの2人に黙ってまでプール来たAさんも悪いし」
「だって絶対反対されるじゃん……」
「Aさんだけの問題じゃないんですって。俺まで由伸さんに怒られましたもん」
ついさっき、わざわざ野手練習の方に来てまで「次ああいうことあったらすぐ連絡して」と言った由伸さんの姿を思い出す。
そのあまりの迫力に俺もつい即断で頷いてしまったものだ。こと彼女の話になると、由伸さんはやけに熱が入る。
「でもさあ、プールくらい好きに行かせろって話じゃない？私のこといくつだと思ってんだか」
――いやまあ、それもこの人のことが好きだからなんだろうけど。
口を尖らせるAさんを横目に、ふとそんなことを考える。
彼女はそんなこと1ミリも考えもしないんだろうが、由伸さんや翔平さん、……以外にもいるけど、とりあえずこの2人はAさんに並々ならぬ感情を抱いている。
それもあからさまってレベルじゃない。
俺どころかネット上の人間にもモロバレなくらいで、気付いてないのはAさんくらいなものだ。普段からこんなだから、もう感覚が麻痺しているのかもしれない。
「えっ、まさかそれで拗ねて野手練習の方に来たんすか？」
「拗ねてないです〜〜。山本と大谷さんに会いたくなかっただけです〜〜」
「純度100%の拗ねじゃないっすか」
俺の身の回りにもAさんを特別視する人間は数多くいるが、そんな奴らを山ほど見て来たせいか、俺は彼女を異性的な目で見たことがない。
Aさんに肩入れするとロクなことにならないのが分かりきっているからだ。
彼女と距離の近い由伸さんや翔平さんを妬む気力は俺にはないし、それで日々気力を削がれている人間も知っている。うちのキャプテンだ。
「違うよ。こっちに来た理由それだけじゃないし」
「はあ、そっすか」
「ウワ、信じてないでしょ。私村上くんに会いに来たんだよ」
眉を寄せ、Aさんが一歩、こっちに詰め寄る。
特別視するな、ロクなことにならない、と自分に言い聞かせ、俺は「そうですか」と呟いた。Aさんがまた口を尖らせた。
〈 三冠王の場合�� 〉→←〈 これもきっと3月のせい�� 〉
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3530人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あちちっ！ | 作成日時：2023年8月11日 14時
