〈 これもきっと3月のせい�� 〉 ページ22
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最初こそ渋ったものの、実際プールに入ってみれば、ちょうどよく冷たくて気持ちよかった。
私はといえば大きな浮き輪をお供にふわふわと浮かんでいるだけだが、周りを見渡せば、はしゃいで遊ぶ選手も少なくない。
「……で、颯一郎は何でそんな顔してるの」
そんな嬉しい楽しい大好きが詰まったプールにおいて、たぶん一番不機嫌なのがこの颯一郎である。
颯一郎は私の浮き輪に捕まり、プールでこんな顔したのは人類初だろうなってくらい険しい顔で私のことを見ていた。ど、どうしてなの……。
「……お前さあ」
そう無言の圧に怯えていると、颯一郎がやっと口を開いた。
濡れた彼の片手が頬に触れ、首元まで水滴が伝う。冷たくて気持ちいい。3月なのに暑いって、なんかちょっと不思議な感覚なのだけれど。
「なんかこう、危機感……っていうか、警戒心みてえなのないの？なんで男だらけのとこで普通に生足晒してプールとか入っちゃうわけ？」
「……だって誘われたんだもん」
「断れよ」
「断ったよ！」
それでも押されたんだから仕方ない。……いや確かに、確かにちょっとホテルのプール興味あるな〜とは思ったけど！せっかく来たから思い出作りしたかったし！
「颯一郎だってプール楽しそうだから来たんでしょ？それと同じじゃん」
「ハア〜〜？？俺は鈍感無防備の塊みてえなAを心配して来てやったんですけど〜〜？？」
「頼んでないもんそんなこと！ねえ牧さん水鉄砲持ってきて！颯一郎倒すから！」
「えっ、俺……？」
「あっお前暴れんなって！こら！」
過保護にも程がある……！もう付き合ってられん！
ということで私は浮き輪のままバタ足で場を離れ、ついでに水飛沫で颯一郎の目を潰すことに成功した。いつまでも同期におんぶに抱っこの私じゃないのだ。
「同級生離れっすか？」
一連の流れを見ていたらしい。バタ足で逃げた先、プールサイドで休んでいた村上くんが笑って言う。
「うん。成長したの」
「由伸さんも過保護っすもんねえ」
「そーだよ。山本も何言うかわかんないし……、プール行ったこと内緒にしなきゃ」
と、そう溜息を吐くと、村上くんは僅かに目を見開いた。えなに怖いんだけど。
「あ〜……」
「えっ、何？」
「あ、いや、……俺さっきAさんが映った写真インスタに上げちゃったかもなって思って」
「……えっ？」
……背筋に寒気が走ったのは、プールの冷たさのせい、じゃない気がした。
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作者名：あちちっ！ | 作成日時：2023年8月11日 14時
