〈 お酒は20歳になってから�� 〉 ページ20
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やっと到着したエレベーターにふらふらと乗り込み、Aは恨めしげな目をして俺を見た。……酒のせいで目が蕩けていて全く迫力がないけれど。
「ふ、そんな顔しなくても良いのに」
「だれのせいだと……」
「むしろ忘れてんのかと思った。A全く触れてこねえし」
「………い、いわないよ、私のこと好きなんですかって」
なんて、気まずそうに目を逸らす。
しかしまだふらつくのか、Aは僅かに俺の方へ体重を傾けた。
きっと酔っているが故の無意識だ。俺を好ましく思ってしたことじゃないのは考えずともわかるのに、でも、それでも胸が高鳴るのは。
「ね、好きだよ」
ゆっくりと、エレベーターの戸が閉まる。
Aの酔いが覚めた時、今日この会話をすっかり忘れられたら嫌だと思った。
だから同じ言葉を繰り返して、どうにか記憶に刷り込ませんとする。Aの脳の中で俺が占めるスペースが増えるように、俺を意識するように、どうにかしてでも。
「し、……しってる」
「……そこは『私も』って言うとこじゃないの」
冗談めかして笑って、少しだけ寂しくなった。
別に返事を求めたわけじゃない。せめて大会が終わるまでは待ってやるつもりでいたけれど、それでも今ここで頷いてくれるのが俺にとっては一番だ。
「………」
「言えない？」
どうしようもない焦りが、胸の奥で燻っている。
そりゃそうだ。6年前は俺だけしか知らない俺の子だったのに、気付けばもう、誰もがAのことを知っている。
俺だけが許されたはずの距離に、堂々と他の人間が立ち入っている。それを間近で見るのがどうしてもどうしても嫌で仕方なく。
「………わ、わかんないです、何も」
ピンポン、と抜けた音と共にエレベーターが止まって、Aは消え入りそうな声で呟いた。
「すきとか、お、お嫁さんにしたいとか、……考えたこと、ないし、そういうの」
「うん」
「み、……みんな、最近わけわかんないこと言うし。私そんな色んな人のこと考えらんないし」
逃げるようにして足を踏み出したAの身体が、危なっかしくふらついて。
思わずその腰を抱けば、真っ赤になったAと目が合う。
吸い込まれそうな瞳だった。危うくキスでもしてしまいそうなほど、
「わ、………わかんないから、あの、」
「……」
「返事は、まってて、ください。……わかるまで」
辿々しく言ったAに、俺はもう頷くことしかできなかった。
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作者名：あちちっ！ | 作成日時：2023年8月11日 14時
