〈 お酒は20歳になってから�� 〉 ページ18
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「やっぱ酔っちゃった？」
「ぽいっす。今動いたら吐くって」
「はは、アメリカで吐いたら伝説だなあ」
吐き気がゆえか、それとも、別の何かに気圧されてか。
やっぱり顔を上げられずにいると、ぽんと頭に大きな手が乗る。反射的に大谷さんの手だとわかってしまうのが、やけに鼓動を早くして。
「……い、今頭ぽんってしないで。吐く……」
「えー、撫でんのもだめ？」
「だめ、です。おおたにさんにはいちゃう……」
頭がうまく回らない。舌の動きも緩慢だ。
遅れてお酒が回ってきたんだ、と思った。調子に乗りすぎたのだ。大して強くもないのに、場を乗り切るためにって、やな飲み方ばかりして。
「……ムネさあ」
頭の上に乗っていた人肌の体温が、ゆっくりと離れていくのを感じる。
どこか遠くで、大谷さんが村上くんを呼んだ気がした。
すぐ近くにいるはずなのに耳が遠い。お酒のせいだ。感覚が何もかも鈍い。まるで頭のてっぺんまで水に浸かったかのような。
「はい？」
「部屋戻ってていいよ。俺がAどうにかするから」
「えっ、いいんすか？」
出国前、ちょっとの間だけ電話した勇人さんの言葉を思いだす。
確かアメリカではあまりはしゃぐなって言われたんだっけ。迷子になるとだめだから1人になるなって注意されて、はいって言って、それから勇人さんは「あんまり酒も飲むなよ」って。
「うん。ちょっと手かかりそうだし」
「大丈夫ですか？あれなら他の人とか呼んできますけど」
「や、いいよ。お疲れ様」
とにかく再三注意されて、それに私は、はいって言ったのだ。
自分がお酒に弱いのも知っているし、それで勇人さんに随分な迷惑をかけたことも、戒めとして記憶の大事なところにずっと残っている。
「じゃあお願いします。なんかあったら連絡くれたら来るんで」
「ん、了解」
「Aさんも。メジャーの大スターに吐いちゃだめっすよ」
だから、だから電話口で「わかりました勇人さん」って、私は。
「………さて」
村上くんの声が本当に遠くなって、視界にちょっとだけ影が落ちた。
俯く私の目の前に誰かが立っている。
誰かじゃない。大谷さんだ。鈍い感覚の中で、確かに心臓が大きく音を立てたのを感じ。
「どうしよっか、A」
「……」
「とりあえず部屋まで送ろうか？」
鷹揚な動作でひざまずいた大谷さんが、私の顔を覗き込んで。
歪む視界の中で目が合って、彼は、口角を緩めた。
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作者名：あちちっ！ | 作成日時：2023年8月11日 14時
