〈 憎めないあざとさの場合 〉 ページ16
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――準々決勝が終わってからというもの、考え事が増えた気がする。
原因ははっきりしている。突然好きだなんて言ってきたアメリカ帰りの大きな子供と、意味深なことを言う山田さんと山本だ。
そのせいで余計なことばかりが頭をよぎって、チームが大事な時期なのにいまいち身が入らなくって。
だめだと考えを振り払う間に夜が明け、気付けば私は、アメリカで初めての朝を迎えた。
「あ、Aさん」
3月18日。
アメリカでは初の全体練習を終え、時刻は夕方から夜に差し掛かる頃のこと。
移動のバスに乗り込みかけていた私は、宮城くんに名を呼ばれて足を止めた。
「どしたの？」
「ちょうどよかった。これから5人くらいでご飯行くんですけど、Aさんも来ますよね？」
「えっ全然行かない」
「えっ」
「えっ？」
飛び出た誘いの言葉に間髪入れず返すと、いかにも驚いた表情で宮城くんが言う。……いや、普通そうでしょ。そんなびっくりされてもこっちが困る。
「何で！？」
「や、何でって……普通に眠いし」
「ご飯食べるだけじゃないですか！大谷さんもいるのに！！」
……その情報のせいで余計に行きづらくなってしまった。今一番私にとってデリケートだよその人。
準々決勝後のあれ以来まともに喋ってないのに、いきなりご飯に同席はハードルが高すぎる。固形のものが喉を通る気がしないんですが。
「大谷さんだけじゃなくて俺もいますよ！？」
「宮城くんとはいっつも食べてるじゃん」
「村上さんもたっちゃんもいるし」
「それはちょっと惹かれるけど」
「あと由伸さんもいる」
「……う、う〜〜ん………」
……何でこう絶妙に気まずい人が紛れているのか。1週間前なら元気よく「行く！」と言っていたであろうメンツも、今となっては渋ってしまうのが悲しい。
「いいじゃないですか。俺に免じて！」
「え〜〜……」
「ねえ、お願いしますって。俺Aさんとご飯食べたいし」
「う、う〜ん……」
「Aさん、WBC期間中あんま構ってくれなかったし。……だめですか？」
「………ゔ〜〜〜〜ん…………」
………ず、ずるい………。
後輩としての武器を存分に発揮する宮城くんを前に、私は思わず唸り声を上げた。……む、無駄な小技身に付けやがって……。
「ね、いいでしょ？」
とどめと言わんばかりに、宮城くんが首を傾げる。
そのあざとさに押され、私は渋々頷いた。……ああもう、これだからだめなのに。
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作者名：あちちっ！ | 作成日時：2023年8月11日 14時
