〈 球界最強投手の場合�� 〉 ページ15
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多分俺は、翔平くんにムキになってたんだと思う。
準々決勝が終わった後のことだ。
盛り上がりに沸くロッカールームの中で、遅れて登場した翔平くんは、まず真っ先に俺のところにやって来た。
何か用ですかと尋ねる前に、翔平くんが笑って。
それに嫌な予感を覚えたと同時、あの人は俺の耳に口を寄せて呟いた。
――「俺は好きだって言ったよ」って。
誰に、なんて考えずともわかる。
心臓が嫌な音を立てていた。Aはまともに返事をしなかったらしいが、それでも、知らないふりをし続けていた焦りが加速するには十分で。
「ほ、……本当にそう思うって、」
だから俺は、こうしてAを練習に誘った。
俺のそばにいてと頼んだ。言わずともそのつもりだったと言われて思考が飛んだ。
「……い、意味、わかんない」
「……」
「付き合うとか、そういう、……ち、違うでしょ、私たち」
Aが誰かのものになるのが嫌で、俺も好きだと言いたくて、やっとここまで踏み込んだのに。
「……ふ、焦りすぎ」
なのに、Aが不安そうに表情を歪めたその時、ふと『冗談にしなきゃだめだ』と思った。
「いつもみたいに受け流さなあかんやろ」
「ご、ごめん……」
「暑さでツッコミのキレ落ちとんなあ」
なんて笑って、居心地の良かったAの隣から身体を引き剥がすように立ち上がる。
未だ不安げに俺を見るAと目が合う。
その視線が何かを訴えるようで思わず笑ってしまった。そんな心配しなくたって、もう俺は何も言いやしないのに。
「水買ってくるわ」
「えっ、……あ、うん」
「グラブ持っといて。すぐ戻るから」
返事は聞かず、とにかく間を置かねばと、自販機がどこにあるかもわからないのに足を動かした。
遅れて鼓動が早鐘を打つ。
Aのあんな顔初めて見た。
切に願うような顔だ。頼むから何も言わないでくれと、好きだと言われたら困ると、そんな不安が前面に押し出されたような。
「………言えんわ、あほ」
ぼやきが唇から漏れ出る。無理だ、あんなの。
あんな顔されて好きだと言えるほど、大事に積み上げてきた5年間は軽いものじゃないから。
「………あー、くそ」
立ち止まったらだめな気がして、ひたすら足を動かした。
「ほんま嫌や」
他人のものになるAを見るのも、誰かの隣で笑うAを見るのも苦しくて。
喉の奥で一度、好きだと呟いた。
胸が痛くて仕方なかった。
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作者名：あちちっ！ | 作成日時：2023年8月11日 14時
