〈 成長できない20代の場合 〉 ページ11
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「……なんか顔ついてます？」
いまいち返答が煮え切らない。
ついさっきまで寝ていたし、もしや涎の跡でもついているのかと顔に触れたものの、至ってそんなものもなく。
「あ、えっと、ついてるというか……」
「はい？」
「書いてる……」
いまいち飲み込めず眉を寄せる私に、アナウンサーさんは手鏡を差し出した。流石アナウンサー、男性とはいえ見た目には気を使うらしい。
でもって、スマホの反射で済ませてる自分が恥ずかしいな……とか呑気なことを考えながら、私は何の気なしにその鏡を覗いて。
……自分の顔が迎えている惨状に、絶句した。
「な、何これ……？」
頬を埋め尽くすように、黒いマジックで何やら文字がたくさん書かれている。えっなに私耳なし芳一？
しかも鏡だから反射して何が書いてあるのかすら読み取れない。そもそも誰が書いたんだこれ。いや何となくやりそうなメンツに心当たりはあるけど……！！
「あっ、ご自分で書かれたわけじゃないんですか？」
「ないですよ！なんて書いてあるんですか！？」
「『絶対優勝』、『がんばれみんな』、『諦めない心』……」
「小学生の寄せ書き……？」
「あと大谷選手のサインもあります」
「あのクソガキ……！！」
早速1人犯人が割れた。ちょっと気まずいとか関係なしにボコボコにしなきゃならない。
「えっ、お前それ今気付いたん？」
と、私が臨戦態勢に入りかけていると、キャリーを引きながら通りがかった山本に声を掛けられた。半笑いだ。ボコボコにしたい。
「おっそ〜。流石に消したかと思ったのに」
「山本これ知ってたの……？」
「見とったもん。なんか騒いでんな〜と思ったらAがおもちゃにされとった」
じゃあ助けろよと危うく啖呵を切り掛けたものの、とりあえずそれは一旦後だ。今知りたいのはそこじゃない。
「……ちなみに誰が書いたの？」
「えー？翔平くんとー、朗希とー、吉井コーチとー、哲人さんとー、周東さんとー」
「多……」
「あと俺」
「……」
「うわっ」
今度こそ笑って言った山本に、私は考えるよりもまず先に飛び出した。今度こそ一発殴ってやらなきゃ気が済まない……！
笑って逃げる山本をキャリーと共に追いかけ、人の多い空港内を走る。
結局、私たちは栗山さんに「走るな！」と小学生みたいな注意を受けるまでデッドヒートを繰り広げた。……この時の様子が、朝のニュースでばっちり使われたのは言うまでもない。
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作者名：あちちっ！ | 作成日時：2023年8月11日 14時
