〈 広報、安堵する 〉 ページ1
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「Aさんと付き合うのは〜、大谷さん、由伸さん、大谷さん、由伸さん、大谷さん……」
「……その地獄みたいな花占いやめてくれる？」
3月15日。
準々決勝のイタリア戦を翌日に控えた今日この日。
練習の撮影に来た私が目撃したのは、後輩――宮城大弥くんが恐ろしすぎる言葉を呟きながら花をぶちぶちと千切っている姿だった。何この光景。夢？
「あ、Aさんだ」
「おはよう。……何してんの？」
「Aさんが誰と付き合うかの花占いです」
「宮城くんて暇なの？」
しかも何でその二択なんだ。ちょっと今個人的にその2人周辺の話題はデリケートだからやめてほしいんだけど。
「めちゃくちゃ暇ですよ。暇すぎてこれで花占い2回目です」
「暇で花占いするって何……？」
時間の潰し方がメルヘンすぎる。ハイジかな。
「1回目は山田さんと颯一さんで花占いしたんですよ。Aさん颯一さんと付き合うらしいです」
「しかも私のことなんだ……」
「で、大谷さんと由伸さんで選ばれた方が次颯一さんと決勝です」
「……花占いってそういうもんじゃなくない？」
いつから花占いはトーナメント制になったんだろう。……いやそうじゃなくて。
「山本と大谷さん、こっちにはいないの？」
1番聞きたかったことを尋ねれば、宮城くんは数度目を瞬かせたあと、「たぶん」と頷いた。
「由伸さんは休憩なんで。大谷さんは野手練習じゃないですか？」
不思議そうに続けた宮城くんに軽く礼を言い、練習場を見渡してみる。
確かに、山本と大谷さんの姿はない。
ほっと胸を撫で下ろして、安堵した自分に驚いた。……いや別に避けているわけじゃないのだけれど、でも何となく気まずくて。
2日前。
山本からご飯に誘われたあの日から、2人の様子は特に変わっていない。
変なことを聞いてきた山本も、あんなこと無かったかのようにいつも通りだ。
普段通りすぎて私が気にしすぎなだけなのかと勘繰ってしまうくらいで。……でもあんなこと聞かれたら普通変に感じると思うんだけどなあ。
――「 『アメリカまで着いてきて』とか? 」
あの時、山本は悲しそうな顔をした。
見たことない顔だった。それが何だか少し、怖くもあって。
「Aさん？」
「……あ、ごめん、なに？」
「いや別に。トイレならあっちですよ」
至って真剣な顔で言う宮城くんに気が抜ける。……こういう時、後輩って可愛いよなあ。
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作者名：あちちっ！ | 作成日時：2023年8月11日 14時
