愛すべき人はツンデレでして。2(ybhk) (ページ30)

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○take out○ ページ30

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大学を卒業してから数年。
久しぶりに伊野ちゃんと食べに行くことになった。

「なんか、隠れ家って感じだね」

事前に調べた情報を頼りにタクシーで向かうと、
どうやら店は表からは見えない所にあるらしい。

"この路地を進んだらありますよ"

少し悩んでいた俺らを見透かしたのか、
優しそうな運転手はそう声を上げてくれた。

ありがとうございます、とだけ軽く伝えて進んでいくと
お世辞にも流行っていそうな雰囲気ではない。

レンガ造りの古民家的なお店だ。

「まぁいいんじゃない？俺は好きよ、こういうの」

好きかどうかは別に聞いた訳じゃないんだけど、
意外にもズカズカと進んでいく伊野ちゃんについていく。

横開きのドアを開けると、暖色の照明と木の温もり

…正直、俺もこういうの好きなんだよなぁ

アットホームな空間に作られたカウンターには
家庭的な料理がズラリと並んでいる。

「いらっしゃい」

「…こんにちは」

髭を生やした優しそうなおじいさんと、腰の曲がったおばあちゃん。

どうやら夫婦でやられているらしい

「いいお店ですね」

「ありがとうございます。
　第２の人生は静かにお店でもしたいなと思いましてね…」

そんな会話を繰り広げる俺をよそに、
何やら伊野ちゃんは既に奥さんの方と親しげだ。

人見知りな俺からすると、ちょっと羨ましい…

「そーなんですね。静かで落ち着きます」

「お母さんはどの料理がご飯に合うと思う？」

「うーん、最近の子には人気がないけど煮物は好きだね」

「やっぱり！俺も大好きなんですよ」

そんな楽しげな会話も聞こえてくる。

「今日は友達から人気って聞いて来たんです」

「……」

俺が口にしたその瞬間、少し奥さんが困ったような顔をした。

伊野ちゃんもそれを見逃さなかったのだろう

「なんか変なこと言いました…？」

「いや…、ホントに何も知らずに来たの？」

「何も知らずに…？たぶん、そーだと思います」

ただ人気ってだけじゃないのかな。
なにか理由がありそう

「まぁ知らずに来るのも全然わるいことじゃないんだけどね。
　大体来る人は事情持ちだから」

「それ、どういうことか聞いてもいいですか？」

さっきの親しげな態度とは一変。
真剣な表情の伊野ちゃんがいる。

こういう時は、あぁ頭良いんだなって改めて思わされる。