9、大切なもの ページ9
「けんと」
リビングを出ていった謙杜のあとを追い、手すりに掴まってゆっくりと歩くその腕を掴む。
「けんと、ほんまに大丈夫か?」
すると、引きづる足を止める謙杜。
「大丈夫やって。ほんまに平気やで、みっちー」
顔だけを俺の方に向けると、少し嫌そうな顔で言い放つ。全然平気やないのは明らかやったけど、俺は何も言えずに、自分の部屋に戻っていく謙杜の姿を目で追うしかなかった。
「大丈夫やった?」
どうしようと頭を悩ませため息をつくと、廊下から恭平が歩いてきた。
「いや...大丈夫やないわ、あれ...。
どうしよ、お母さんに言った方がええんちゃう?や、でも謙杜は嫌がるか....やけどあの様子じゃ心配やで...」
「そんなにやばかったん?」
「いや...分かれへん、謙杜は大丈夫や言うてたけどさ...」
俺がこんな焦っとんのは、さっき夕食を囲む食卓で、お母さんから「今週末に親戚のおばさんがくる」と報告があったから。
親戚のおばさんって、もしかしたら...
嫌な予感がして聞いてみると、その予感は的中やって、1ヶ月前くらいにコテージに来たおばさんのことらしかった。
お母さんも苦い顔して「大丈夫?」って聞いてたけど、謙杜は「大丈夫や」言うてその話はそこで終わったんやけど。
その話が出た瞬間の謙杜の表情、俺は見逃さんかった。
もし嫌なんなら断ることもできるし。とお母さんも心配しとったけど、どうやらもうここに来るまでの電車のチケットを取ってしまったらしく、その場ですぐには断れんかったらしい。
「またあの人が謙杜に何か言うたら俺、その場で回し蹴りしてまうかもしれん」
「ハハハ!それは心強いわ」
1ヶ月くらい前、謙杜の見舞いや言うてこのコテージにやってきたその人。俺は出かけていてその場におらんかったから、何を言われたんかはあんま知らんけど。その人は、ここぞとばかりに謙杜に酷いことを言ってきたらしい。
俺と謙杜が一緒に寝るようになったのもそのせい。
病気の症状の悪化でもともと不安定やったうえにそのことがあって、謙杜は精神的にも身体的にも調子を崩してしまった。夜一人で寝ることを怖がって、一緒に眠るようになった。
「まぁ、ちょっと様子見てみよ。もしあかんかったら、なんか理由つけて逃げればええんやし。」
「ん...そーやな」
謙杜は人に心配されるのがニガテやし、なにより意地っ張りやから。
たぶん、謙杜の中でも今、いろいろ葛藤してるもんがあるんやと思う。
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作者名:もけけ | 作成日時:2022年7月2日 5時