5.日常 ページ5
恭平が「じゃ、あとはよろしくな」と言って部屋を出ると、また僕と謙杜だけの空間になった。
相変わらずスヤスヤと眠っている謙杜に釣られて、僕の瞼もだんだん重くなってきて気付けば夢の世界に誘われてた。
「やだ、やだ」
静寂の中、静かに呻く声が部屋に響いた気がして重たい瞼を持ち上げる。
カーテンから漏れる太陽の光が僕の目をツンと突き刺す。
声の主の方を見れば、そこに姿はなく謙杜の形に膨れた布団があるだけ。
頭まですっぽり顔を埋めたそいつがまた声を押し殺すように小さく呻くのが聞こえて、そっとその背中に触れると、華奢な身体を小刻みに震わし蹲るように身じろぎをするのが分かった。
あぁ、またか。
最近、こういうことが増えた。
朝になると何かに怯えたように1人で泣いてる。
以前恭平が聞いた話では、このままこれが最後の日なんじゃないかと、これが最後の朝なんじゃないかと、怖くなってしまうらしい。
普段は明るい性格やけど、このときだけはどうしても気持ちの整理ができなくなっちゃうみたいで。
布団を剥がし、小刻みに震えるその小さな身体をギュッと後ろから抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫。
ここにいる、大丈夫。」
どうにか自分の存在を確かめてほしくて、一人じゃないよと伝えたくて、腕の中で泣くそいつに「大丈夫」を繰り返した。
するとヒックヒックと横隔膜を痙攣させながら「ん、ごめん、もう大丈夫」という声が聞こえてくる。
「よかった」
僕はそう言いながら、謙杜の小さな身体を強く抱きしめた。
「いたいよ、みっちー。離して」
「やだ、離さない。」
「離して」が本音じゃないなんて、僕にはお見通しなんだからな。
ほら、その証拠に、謙杜は「もー」と言いながら抱きしめる僕の腕をそっと握った。
「行かないで」とでも言うように。
なんだかその気持ちが焦れったくて、「ふふ」と笑うと相変わらずヒックヒックと喉を鳴らしながら「なに笑ってんの」と聞くから、「いや、別に」と言ってやった。
病気であることの辛さは、当の本人にしか分からない。
だから僕は無理に綺麗事なんて言わない。
それがさらに謙杜を追い詰めることを知ってるから。
だから、僕は謙杜のそばにいて、謙杜が助けてほしいときにそっと手を差し伸べるだけ。
無理に干渉しないと、心に決めてあるんだ。
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作者名:もけけ | 作成日時:2022年7月2日 5時