4.だからな ページ4
「あのな、みっちー。」
謙杜の頭を撫でていた恭平が、謙杜を優しく見つめながら、僕に問うた。
「父さんと母さんが、もう治療はせずに、謙杜が大好きな場所で最後を迎えさせるって決めたとき。
俺はめちゃめちゃ反対やった。
なんか、謙杜が死ぬって覚悟ができちゃったみたいで。
諦めたのと一緒やんって。
俺は謙杜の病気がどれくらい進行してるのかとか、薄々聞かされてはいたけど、実際どの程度のものなのか、どこが悪いのかも知らんかったし、それはたぶん父さんと母さんが1番理解してることやったのかもしれんけど。
それでも俺は嫌やった。
この先、謙杜がいない世界を想像するのが嫌やった。
でも、」
謙杜に向けていた視線を僕に移す恭平。
「みっちーが
『謙杜はいつになったら、あの苦しみから解放されんの?』
って、俺に泣きついてきたときあったやろ。
『謙杜の幸せは、一体どこにあんの?』
って。
そんなん、俺も分からんよって思ったけどさ、
それと同時に、気付かされたこともあって。
俺は、自分のことしか考えとらんかったのかもって。
ただただ謙杜がおらんくなったときに自分がどう生きていけばええんか分からんくて、それが嫌で反対してただけやんって、気付かされたんよ。
謙杜のことを考えてるフリして、なんも考えてなかったんは、俺やった。
だからな、みっちー。」
恭平は、謙杜の頭を撫でていた手で、僕の手を優しく包んだ。
「めちゃめちゃ感謝してる。
謙杜、毎日すごい幸せそうな顔しとるから。
時々、やっぱり本人も分からんくなって、心が苦しくなっちゃうときもあるみたいやけど。
こんな幸せそうな顔、東京におるときはほとんどしなくなってたからさ。
みっちーがあのとき、俺にそう言ってくれんかったら俺、ずっと謙杜を苦しませたまんまやったかもしれん。」
謙杜が大好きな、夏の海の近くのコテージに家族は一時的に移住を決めた。
恭平は夏休み中やったし、謙杜のお父さんはなんとか会社に頼み込んで、無期限の休暇をとったらしい。
ほんまは家族だけでってしとったみたいやけど、「駿くんはもうウチの家族の一員みたいなもんやから、もし来たいんだったらいらっしゃい。謙杜も会いたがってる」と謙杜のお母さんから電話があって、夏休みに入れていた予定を全て蹴って、僕はすぐに駆けつけた。
そして今、僕達は5人、このコテージで穏やかな日々を送ってる。
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作者名:もけけ | 作成日時:2022年7月2日 5時