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近くのバス停言うても謙杜にとったら一大イベントで、感染症にかからないためのマスクやら、熱中症予防の水やら薬やらを持たされ、厳重装備で家を離れた。
「なんかあったら電話するんやで？」
という恭平の言葉を背中に、ゆっくりとその道を進む。
晴れの日が多いこの場所は、今日も例のごとく日差しが強く照らしつけた。海の見えるバス停まで数分。海岸沿いのその道からは宝石みたいにキラキラと輝く海が一望できる。波の音が心地よく耳に響いた。
「なぁ、なんで俺やったん？」
ずっと疑問やったことを謙杜にぶつけてみる。
「んー、なんとなく」
やけど謙杜の答えは曖昧で、さっきの真剣な眼差しは「なんとなく」って顔じゃなかったやん。と、どうにも心に引っかかった。
「ほら、水。飲まな。」
普通に歩けば10分もかからん距離やけど、謙杜のゆっくりとした足取りではその倍以上の時間がかかってしまった。
次第に息も上がってきてしまったから、何度か「休憩しよ」と言ったけど、その度に謙杜は首を横に振った。
バス停にあるベンチに腰掛け水の入ったボトルを差し出すと、その水をちょびちょびと飲む謙杜。
「へいき？」
そう聞くと、謙杜は「ほんま、皆心配しすぎや(笑)」と笑った。
「いやだって...
......なんでそこまでしてお迎え行きたかったん？」
「そりゃ、おばさんは俺に会いにきてるんやろ？それやったら、俺が最初にご挨拶せな」
「でも...」
でも、また酷いこと言われるかもしれないやん。
思わず言いそうになってしまうのを堪える。
「大丈夫、心配されんでも分かってるから。」
俺の心を見透かしたようなその言葉に驚いていると、謙杜は道路の遠くの方を見つめた。
「あ。あれかな」
言われて謙杜の視線の先を見ると、遠くから1台のバスが走ってくるのが見える。
「ほんまや」
あのバスに、あの人が。
謙杜を苦しめた、あの人が。
そう思ったらなんだか無性にイライラしてきて、いま、ここで謙杜を守れるんは俺しかいないと思うと、謙杜を支える手に力がこもった。
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作者名：もけけ | 作成日時：2022年7月2日 5時
