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「あ、もうすぐ着くって」
受話器を置いたお母さんが、リビングのソファに座った僕たちにそう伝える。
おばさんが前にここへ来たときに謙杜に向かって酷いことを言ったっていうのは聞いていたんやけど、僕が実際にその人と会うのは初めてで、一体どんな人なんやろかと緊張で胸がドキドキと音をたてる。
「はぁ」
すると隣に座っていた謙杜が小さくため息をついた。
気になって隣を見ると、謙杜は伏し目がちにぼうっと床を見つめていた。
「平気か？」
誰にもバレんような小さな声でそう聞くと、床を見つめたまま謙杜はコクンと頷く。
ほら、全然大丈夫やないやん。
大丈夫やないんやったら、もっと早く言えば良かったのに。
「2階上がるか？」と声をかけようと息を吸うと、その瞬間「おれ、おばさん向かいに行ってきてもええ？」と言って顔を上げた謙杜。
「もうちょっとで駅に着くんやろ？これくらいの距離やったら、歩いていけるし」
確かに近くのバス停までは、ここから歩いて10分もかからん距離にある。
長距離の時とか調子が悪い時は車椅子で移動することも多いけど、最近の謙杜は体調もよくて、ちょっとくらいの距離ならば杖と補助があれば外を歩いたりもしていた。
やけど、そんな酷いこと言うようなおばさんと直接たくさん話せちゃいそうな状況をつくって、ほんまに大丈夫なんやろか。
ここにいる皆が俺と同じように謙杜のその言葉に驚く。
「心配しんといて？お母さん、お願い」
真剣な眼差しでお願いする姿に、お母さんも頭を悩ませているようやった。
「それやったら、お母さんも一緒に行くで」
「んーん...みっちーと行く」
突然俺の名前が出てきて驚いていると、「ええやろ？」とでも言うようにまた可愛い顔で俺を見つめてくる謙杜。
「お、おう...お母さんがええのやったら...」
ここは俺の判断ではどうしようもなくて、確認しようとお母さんの方を向くと「え、でも...」と心配するようにお父さんと目を合わせていた。
「お願い、行かせて？みっちーがいるから大丈夫」
なかなか頑固な謙杜に、「わかった。でもちゃんとマスクとかせなあかんで」とお母さんも根負けしたようやった。
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作者名：もけけ | 作成日時：2022年7月2日 5時
