【短編集】きゃんでぃ (ページ19)

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ゆらりと、気持ちが傾いた。

目の前にかざされた自由を
即座に手にしたくなった。

でも、所詮は夢のまた夢のこと。

「一緒に……行けたらいいんだけどな」

意識したわけでもなく
目線は自然と下にいく。

自由など、私はどれほど望んだことか。

「なら……っ」

「無理だよ。サンジ、私がここを正式に出て行くのにどれだけの金がかかるか分かるか？…1億だ。クソ高いだろ。私には全く想像もつかない額だよ」

ふ、と笑みを浮かべて見せたが
今のはきっと諦めの笑みだ。

1億など、誰が出せる？

こんな遊女のために。

「言っとくけど、無理に逃げ出そうとしても殺されるだけだ。そうやって死んでいった遊女たちがごまんといる」

私たちは籠の中の鳥とよく言われる。
それほど的を射ている表現は他にないだろうと
私も、そう思う。

所詮、遊女など男を喜ばす道具でしかない。

ここに売り飛ばされた時から
一切の望みを捨てると誓ったんだ。

自分が傷つかないように。

「サンジ、この金を渡しとく。海賊の身なんだ、すぐここを離れるんだろ？最後にこの金で見世に来てくれよ。わっち、牡丹太夫が誠心誠意おもてなしいたしんす」

最後は遊女らしく
廓言葉で、かつ妖しげな笑みを浮かべて言った。

こんなにも遊女らしくなった私を
サンジはどう見る？

別に、どう思われたっていいか。

そう心の中で思って
自分に言い聞かせているだけ。

サンジは黙って金を受け取ると
どこかへ消えてしまった。

黙っているのは何故だろう。

こんな私のことを受け入れられないのだろうか。