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あの日はどうやって帰ったか覚えていない。

うまく笑えていたのかさえも。

気が付いたら家に居て、

深澤さんが最初にくれたネックレスを外し、

引き出しに仕舞い込んでいた。

「Aちゃん、今ちょっとええ？」

『はい……？』

1週間経った日の昼休み。

気を遣ったテンションで声をかけられる。

「最近お疲れに見えるけど、平気？無理してへん……？」

『……康二くんが言った通りでした。場違いだったみたいです』

「！、せやから、あれは……」

『彼の！…母が、そう言ってたんです』

あからさまに康二くんの顔が強ばり、眉間にしわが寄る

「会うた…って、こと？」

『スマホの…画面見えちゃって……最低です私』

彼女さんと円満で、身分なんて気にしなくて大丈夫なくらい

対等な康二くんには伝わらないかもしれないけど、

私からしたら少しでも深澤さんに近付きたいと努力していた。

今となっては、していた"つもり"だったのかもしれない。

「またお得意の……さつ……。ふっかさんとは話さないん？」

言葉の途中が聞き取れず気になったけれど、

冷静に彼と話せる気がしなくて思い切り首を振った。

『康二くんにまで色々悩ませちゃってごめんなさい、
もう自分で解決するので！』

取り繕った笑顔なんて通じるわけ無かったけど、

覚悟を決めてここずっとスルーしていたLINEに既読を付ける。

"おつかれ‼️"

"体調きおつけて"

"無視しないの‼️わら"

"Aちゃん？"

他にも何件か。

彼が良く使うビックリマークとか、わらとか

朝送られてきてたLINEには使われていなかった。

本気で心配してくれた時や、

大事な事を送信してくる時はいつもそうなる。

彼に負担をかけすぎていた。早く、決めなければ。

－お前なんかすぐ捨てられるだろ

－あの人に一途だもんな〜！！

－まじで付き合ってんの？？

過去のトラウマが渦を巻いて内側から

がりがりと私の中の小人が心を削り取っていく。

耳を塞ぎたくなるような音に目の前が歪む。

『こんな事なら出会いたくなかった』

ポツリと吐いた言葉は

空気中に溶けてあっけなく消えて行って、

近くにあった自動販売機でさえも

知らん振りをしてそこに佇んでいる。

送信ボタンに触れたあと、

逃げるように彼からの通知は切った。