cigar- （２） (ページ12)

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聞き慣れすぎた声に足を止めると、

以前のようにバケットハットを被って

イヤホンを外しながら近付いてくる康二

「今帰りなん？」

『ん、こんな時間に何してんの？』

「こっちに来るん珈琲豆調達だけや」

『店は？』

「あー、瑞稀が1人で居てくれてる。今日は早めに閉めんのよ」

発車まであと1分今走れば乗れる。

康二の話を聞いていると、

後ろポケットに入れたスマホが震える。

確認だけでもと手を伸ばすとその腕を掴まれた

「なんか急いでる？もしかして喧嘩とかもほんまなん？」

『えっ、いやまあ間違いではねーけど……手』

「…ごめんな」

細々とした声が

周りの雑踏にかき消されて聞き取れなかった。

今確かに何かを言った気がするけど

『え？』

「あ、ううん、ふっかさんちょっと時間もらえん、かな？」

俺が乗ろうとしていた電車が

ホームに入っていくのが見える。

もう走ったところで間に合いっこない。次は4分後。

今すぐにでも帰りたい俺からしたら長くて仕方の無い時間。

『わり、今日早く帰りたいから』

「せやね…ほなな」

それだけ言うと直ぐ手を離された。

スマホはもう沈黙を貫いている。

案外あっさり離れていった康二は

この電車に乗って帰らないのだろうか

俺がさっきまで歩いてきた道を辿るように消えていった。

話している最中もチラチラスマホを見ていて、

俺の話も良く聞いていたのかどうか。

昼の時と、というか

いつもとはまるで違う様子がとても気になる。

こんな時間に調達に来ることあるか？

この電車は逃すまいと、

大人しくホームの列に並んで次を待つ

着信の相手だったAに折り返しておこうと電話をかける。

なかなか出ないそれをじっと待つと

およそ15コール後、無情にも切れた。

画面には応答なしの文字。

どこからともなく湧いてくる焦燥感は気が付かぬふりをして

GPS付きの財布が入った鞄の中にスマホを放り込んだ。

帰ったらもう一度ちゃんと謝罪しなければ。