#_39 ページ39
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中村 side
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こんなにも後味の悪い東京旅行は初めてだ。あの後、結局元太の病院へ行かなかった。というか、行けなかった。怖くて怖くて。でも、1回は行った方がいいなと思って今日行ってきた。夕方だったから、元太寝てたけど酸素マスク付けられてて、1週間でこんなにも悪化するんだって病気が怖くなった。
地元に帰ってきて、Aが東京どうだった？って聞いてきたけど、なんて返せばいいかわからなくて、楽しかった だけ返した。絶対もっと楽しいはずなのに、楽しめたはずなのに、観光だって行けたはずなのに。元太が心配でほぼ観光なんてできなかった。心配性すぎるのかな。
｢元太くん元気だった？私先週メッセージ送ったんだけど返信来なくてさ｣
『...返信こないんだ。元太あんまり携帯見てなかったから気づいてないんじゃね』
｢確かに携帯いじってるのあんま想像つかないかも｣
元気かどうかなんて、返事は決まってるけど触れることすら出来ない。それに、Aからの通知を消した後ろめたさがある。
あまり元気ない俺を察してか おばちゃんのお店でラムネ買ってくるね と言って部屋を出ていった。ラムネなんて、秋に飲むもんじゃないけどまあいいか。
申し訳程度のお土産として買ってきた東京のバナナ味でバナナの形をしたケーキを置いて、荷物を整理する。携帯の写真フォルダをひらいて思わず えっ と声を上げた。そこには松倉くんと元太のツーショットが入っていた。恐らく俺がいない間に撮ったのだろう。この元太をAに見せたらどう思うのだろうか。考えるだけで胸が痛くなる。
ラムネを買ってきたAはお土産を頬張りながら東京っぽい写真見せてよ と笑顔で言ってくる。Aに携帯取られる前に急いであの写真を非表示にして携帯を渡す。いい感じじゃん と言ってラムネをひとくち。
｢そういえば、松倉くん？って人ってどんな人なの？写真とかない？｣
『あー、ごめん撮ってないわ』
｢えー、気になるなぁ。｣
『あ、そうだ。今日俺レポートやらなきゃだわ』
｢あ、そうなんだ。じゃあまたあしたね｣
『うん、また』
結局俺は、好きな人にさえ嘘をつく最低な男だ。いつまでも逃げてばかりじゃダメだな なんて思って、炭酸の抜けたラムネを口に運んだ。
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作者名：夕 | 作成日時：2021年7月1日 21時
