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最近よく食べ物でむせるようになった。特にスープとか汁物。地味に苦しいの。噛むのも遅くなったのか食べるにも時間がかかるし最近は疲れちゃって最後まで食べきれない。
そういえば、秋冬は乾燥で感染症にかかりやすいからってAに会うのは春になった。今はもう秋も終わりそう。海斗も、ニット帽被り始めた。海斗がニット帽被り始めたらもうすぐ冬ってことなの。昔からそう。
『まじさみぃ！』
｢おつかれ｣
『元太また声ちょっと枯れてんね』
｢多分ずっとこうじゃない？ むせたりして喉痛めてるし｣
『じゃあ、今日は相槌とかいらないなら俺がめっちゃ話すね』
｢わかった｣
『あ！相槌いらないって！』
もう始まってるんだ、笑
声が枯れるようになってから、勘づかれるのが嫌で電話はしなくなった。受けてもないゼミが忙しいとか、入ってもないサークルが忙しいとか。まともに文字も打てなくなってきて、『ごめん今忙しい』って打つのに10分はかかるから疲れちゃう。
海人からはAが寂しがってるって連絡が週2くらいでくる。海人に電話したら、声大丈夫？って言われちゃった。やっぱおかしいよね。気づかれちゃうし、電話できないや。
今日は土曜日。海斗は妹とご飯食べに行くと帰って行った。それと入れ違うくらいに、宮近先生が来た。声出すの辛かったら無理に話さくていいからね とカルテを出しながら言う。
いつも通り、足の動きチェックと手の動きチェック。手はもう動かなくて、前腕もちょっと鈍くなってきてるらしい。足は歩く時にカクっと力が抜けるようになった。手すりとかに掴まったらまだ全然大丈夫なんだけど、近いうちに車椅子生活になりそう。
『よし、今日の検査終わり。声出すの辛くない？』
｢うん。大丈夫｣
『そっか。ちょっと聞いて欲しいんだけど、元太くんのエコー見た感じ、進行が若干早くなってるんだよね。この写真見ればわかると思うんだけど、腫瘍が大きくなってるのわかる？』
｢....ほんとだ｣
『明日病院行って全身検査してもらおうか。脳とかに転移してたら大変だから。体に何か変なことあったりした？』
｢ううん。いつも通り｣
『良かった。あそうだ、元太のお母さんが今日の夕飯俺の分も作ってくれてるらしいから今日一緒に食べようか』
｢うん｣
いよいよ病人と先生って関係になってきた。宮近先生は一旦外にでてママと話すらしい。どうにも抗えない悔しさで流れた涙は、飽和して宙へと消えた。
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作者名：夕 | 作成日時：2021年7月1日 21時
