お母さん ページ21
◇
私にはもったいないくらいの娘でした。
「おかあさん、だいじょぶ？」
「…うん、ごめんねぇ、A」
娘はいつもわたしを心配していたと、そう記憶しています。私によく似た瞳と、黒い髪の毛。あの人によく似た、赤色の、瞳。
彼は暴力を振るう男でした、私は娘を守るのに必死で、ほかのことはよく覚えていません。
それでも私は確かに彼を愛していましたし、彼もきっと、私を愛していてくれたでしょう。それは娘も同じです。
この島が海賊に襲われ、貧困となる前は、娘を抱いて海へよく出かけていました。
しかし海賊に襲われ、島が半壊した頃、彼は変わったのです。
このままでは私も娘も殺されてしまう。逃げ出した先で待っていたのは地獄でした。
私はきっと、おかしくなっていたのだと思います。気づけば可愛い娘に手を上げ、蹴飛ばし、盗みをはたらかせました。
娘は律儀にそれに従いました、一度だけ、我に返って彼女を抱きしめようとした時、彼女は怯えた顔で私を見ていました。私は抱きしめるのを辞め、ごめんね。と一言呟きました。
娘は不思議そうに首を傾げ、また昔のように私に聞きました。
「おかあさん、大丈夫？」
「…うん、…うん」
優しい娘でした。私なんかにはもったいないほどの、いい娘でした。
何を気が狂ったのか、私はある男と体の関係を持ちました。きっと寂しかったのだと思います。
彼女はもっと悲しくて、辛い思いをしていたというのに。
…いや、私が家に帰らないことを喜んでいたかもしれません、そのうちに逃げてくれれば、きっと良かったのに。彼女は律儀にも私の帰りを待っていました。
褒めてあげよう、そう思った瞬間彼女の小さくて細い体が大きな音を立てて吹き飛びました。
私の腕が、手が、彼女を叩いてしまったようでした。
ごめんなさい、と娘が呟きました。私のセリフだと、震える手を押えながら考えていました。
娘はいつの間にか、笑わなくなっていました。
最後に笑顔を見たのは、恐らくもう5年は前のことでしょう。私も、笑えるような状況ではありませんでした。
しかし彼女はまだ幼い、たくさん笑って、沢山食べて、そんな生活を送らせてあげたかったのに。
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作者名：Strawberry | 作成日時：2023年3月29日 16時
