7 ページ7
◇
「姉さん」
「ん？」
ねえさん、ともう一度拙い声で紡がれる言葉。
Aは目を細めながら、優しい顔でルッチを見つめていた。
ルッチは何かあるといつもこうやってAに擦り寄り、ただひたすらに女の存在を自分の中に染み込ませるのだ。
「…あの時、行ってしまうかと思った」
「うん」
「俺を捨てて、居なくなるのかと、疑った」
「そうかもしれないわね」
「……どうして、思い留まったんだ？」
ルッチの言うあの時と言うのは、麦わらのルフィに敗れたあの瞬間のことだろう。
「貴方がいたからよ、ルッチ」
「…え？」
「貴方がここに生きていたから、私は帰ったの。」
貴方が私の帰る場所だから。とAはルッチの厚い胸板に擦り寄った。
今度はルッチが呆然とする番だった
ルッチは姉を愛している、しかしそれは姉もそうだという話ではないと思っていたからだ。
姉には幼い頃から愛する人がいた。名をスパンダム、そう、彼らを切り捨て、抹殺命令を出した張本人である。そんなクズでどうしようもない男でも、姉はそんなクズを愛していた。確かに、愛していたのだ。
そんなクズが姉に「相討ちになってでも」なんて、遠回しに死んでもなんて戯言を命令してしまうから、姉はきっと帰ってこないと思っていた。
帰る場所を失った姉は、きっと自身を残して死んでしまうと思っていたから。
だがどうだ？Aは瀕死になりながらもルッチの元へやってきた。ルッチを守るために、戻ってきた。
姉にとって自分は取るに足らない人間だと思っていた、そう思い込んでいた。だと言うのに目の前で少女のように笑う姉は、そんなこと一ミリたりとも思っていなかった。
ルッチはあまりの想いに心臓の辺りをくしゃ、と握りしめて歯を食いしばった。
まずい、下手したら変な顔でにやけてしまうかもしれない。姉と二人きりならまだしもここにはジャブラなんていう男も乗っているのだ、どうにかしなくては。しかしそんなことも露知らず、姉が心配そうにルッチに声をかけた。
「ルッチ、大丈夫？」
「……あぁ、なんでもないよ」
「本当に？私何か変なこと言っちゃったかしら…」
「いや、本当に姉さんは悪くないんだ、だからそんな顔するな」
そんな顔って？とAは楽しそうに笑う。ルッチはほっと息をついた。先程までのAは不安そうで、手を離せば消えてしまうような、そんな顔をしていたから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 86人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Strawberry | 作成日時：2023年3月12日 0時
