記憶喪失2 ページ19
ギャグ
◇
「…ねぇ、あの人、誰？」
「あ？」
Aが指を指した先、そこに居たのは慌ただしく室内を駆け回るスパンダムだった。何言ってんだコイツ、とAに目を向ければ、思ったより早く目が合う。
その目は真剣そのもので、嘘や冗談を言っているようなものではなかった。
「誰って…なんでそんなこと」
「いや…すっごく好みのヒトだから、職権乱用しようかしら」
「はぁ？あいつはお前の旦那だ狼牙！なに馬鹿なこと言ってんだ」
「え？…いや、私まだ結婚してないし、初恋もまだじゃない。あなたが一番知ってるでしょうに」
はぁ、と分かりやすく落胆のため息をついたAを睨み返したのはほとんど反射のような行為だったと思う。ジャブラは目の前で起きることの意味がわからず、チッと大きく舌打ちをして頭をかいた。
「おい化け猫！こりゃどういう事だ！」
「…前回の任務、覚えているだろう。あの能力者集団の」
「あァ…珍しくこの女が怪我して帰ったやつな」
「そうだ、そこである煙を吸わされてな、それが上手く記憶を消しちまうものだったらしい」
薬は打ったから1週間すれば戻る、とルッチはそれだけ言って遠い目をした。
自分が忘れられなかった安心半分、やはりスパンダムがAの心を占める割合が高いのに嫉妬半分、ジャブラは面倒くさそうに息を吐いて近くの椅子に腰かけた。
「ねぇ、それで彼は誰なの？」
「あー…スパンダムだ、ルッチの補佐してんだよ。あの化け猫脳筋だからな、司令塔が必要だろ」
「へぇ、頭もいいんだ」
そうとだけ言うとAはそのままスパンダムに近付いて言ってしまった。また面倒なことになるな、他人事のように思ったジャブラはそれを見送った。
スパンダムはカクとなにか話し込んでいたようで、ふらりと近づいてくる妻の姿に目を見張る。
「スパンダム、っていうの？」
「…えぇ、副総監殿が俺になんの用で？」
おや、事情は知っているのか？それにしてはダメージを受けてないな。とジャブラはつまらなそうに目を細めさせた。Aはそんなことも露知らず、スパンダムに詰め寄る。
「恋人は？」
「…妻が居ます」
「えっ！！？…そうなの？」
なんだ残念、とAが肩を落としてジャブラの元へ戻ってきた。しかしまさか記憶のない状態でスパンダムにまた求愛するとは、こいつの執着も並大抵のものじゃないのだろう。
対するスパンダム、全ての事情を知っているがゆえの困惑だった。
「お？Aのやつ、スパンダムの記憶が無いんじゃなかったかのぉ」
「そのはずなんだが…」
「ワハハッ！面白いのぉ、何度出会ってもAはスパンダムに恋するのか！」
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作者名：Strawberry | 作成日時：2023年3月12日 0時
