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◇
「…これはちょっと際どくない？」
「前からこんな服しか来てないだ狼牙」
「あれは長官を振り向かせたくって…！…いや、なんでもない。」
靴はこれがいい。と黒のロングブーツを指さしたAの横顔を見下ろす。
態度だけは俺よりでかいがそれ以外は全て小柄なこいつだ、俺の身長から見下ろせば全て見えるわけで。
長官の単語が出た時の傷ついたような顔も、丸々見えてるわけだ
「忘れろなんて誰も言ってないだろ」
「…忘れたいわけじゃないから、大丈夫」
色々考えはあるから。とAは俺に買わせた服とブーツを身につけた。
頭に巻いてある包帯は死ぬほど痛々しいが、この元気さならすぐにでも取れるだろう。
というよりも足を気にするべきだったか、その長さでなんでパンツ見えないんだ？
「…際どいっていうか、あざとい…」
「カリファがこれ着させろってうるさくてよ」
「…袖の長さがあまりすぎだし、ほぼワンピースみたいなカーディガンね…」
でもカリファが言うなら喜んで着るわ。とAは目を伏せて真っ白なカーディガンを見つめた。
さ、行こ。とAが俺の手を取りコツコツとヒールを鳴らして歩き出した。
あの化け猫が目覚めるまでにも少しかかりそうだし、久しぶりにこいつと散歩でもしてみようか。
「……ジャブラ？」
「あ？」
「なあに辛気臭い顔してんの」
「…してねぇ」
「してる、貴方は馬鹿なんだからあんまり深く考えなくていいんだよ。私は強いし」
そう言って俺を振り返る姿はまだ10代の頃のAと重なって、なんだか酷く懐かしく思えた。
あの頃はコイツが随分と生き急いでいて、俺はそれを止めるのに必死だった。
まるで機械のように育てられた俺にとって初めての友達だったから、初めて俺を人間として扱った奴だったから。
だからこそ人間臭いアイツが兵器になるのは反対だったし、あいつによく似た化け猫が冷徹になっていくのも見ていて面白いものじゃなかった。
「馬鹿は余計だ」
「…あんまり怒んないのね、私が怪我してるから？」
「今のお前は俺にも負けそうだからな」
「そんなことないわよ！」
今度は頬が膨らんだ、虎っていうよりハムスターかなんかに見えないこともない。わかったわかった、と軽くあしらってやればさらに膨らむその頬。
なんだか俺も面白くなってAの頬をふに、と潰した。もう35だってのにこいつの肌はハリツヤが無くなることは無いのだろうか。俺が女だったら劣等感のひとつ生まれていたかもしれないな
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作者名：Strawberry | 作成日時：2023年1月16日 0時
