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「久しぶり、松川」
「……おー。見ねえうちに大出世しちゃって」
今でも俺は高3が人生の最高点だったと思う。こうやって地元の居酒屋に腰を下ろして、高校の同級生と酒を交わす今でも、だ。
「若き新星、だっけか」
「恥ずかしいよなあ、それ」
俺は脚本家になった。専門学校で映画の技術を学び、映画スタッフをしながら応募した脚本が賞に入った。
「たいしたもんじゃねーの。やっぱぶっとんでるよ、お前は」
「それ、高校ん時花巻にも言われたなあ。でも俺の今はやっぱり、高校の時の延長戦だよ」
タイムスリップ。実際にそれが叶うことはなかったけれど、物語の中ではそれが容易に出来た。
「及川、この前の試合中継見てたけどかっこよかった。でもやっぱり、俺らといるときが一番かっけーよ、及川は」
「自意識過剰」
「いいだろ、別に。でも俺、高校の時あんだけお前らに好き好き言ってたけど、本当はめちゃくちゃお前らを嫌いな時期あったんだよ」
「え」
松川は少し目を丸めた。
最初の頃、俺は本当にコイツらが嫌いだった。一生懸命でカッコいいコイツらが眩しくて仕方なかったんだ。羨ましかった。大嫌いだった。
「嫌いだったなあ、本当に。一生懸命になれるお前らに嫉妬で気が狂いそうなったくらい。でもそれを好きに変えてくれたのも間違いなくお前らだったんだよ。俺を仲間だって言ってくれたとき、俺まじでお前らのためにバレーやろうって決めたから」
松川は笑った。
「んで？お前は俺らのことが好きすぎてタイムスリップを夢見たってわけ？やべーな、本当。いかれてる」
「だろ。でもなあ、これがまた覚えてんだよ。あん時の出来事も、感情も、すんなり思い出せんの。文字にすんのは苦じゃなかった」
試合の対戦相手。相手の表情。仲間の表情。焦りとか、喜び。悔しいとか情けないとか、そんなことまで鮮明に。
俺の青春はバレーと、仲間だった。
「で、出来は？俺らをモデルにしたんだから、さぞカッコいいストーリーなんだろうな？」
茶化すような松川に思わず笑った。
「世界一カッコいいバレー馬鹿達の、ありきたりでしょーもないくそ尊い青春の話だよ、バーカ」
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作者名：える | 作成日時：2019年8月10日 6時
