懐かしい話 ページ10
一時期、というかある日を境にてつやの口からよく逆崎さんという名前を聞くようになった。
「最近彼女と別れたばっかなのに逆崎さんなの?次は。面食いすぎ」
「ちゃうやん!逆崎さんは別やん!」
部活の休憩中、タオルで汗を拭いながらジトリとてつやを見ると、彼はブンブンと首をふってそう否定する。
「でも逆崎さんって女子の友達馬鹿多いのに男友達少ないよね」
よくうちのクラスの女子と絡んでいるのを見るが、男と話しているところをあまり見たことがない。「男苦手なんじゃない?」そうてつやに言えば、彼はぐっと喉をつまらせた。
「友達なれんかなあ……」
本気でそう悩むてつや。彼女、ではなく友人。珍しいこともあったものだと、その時の話は休憩終了を知らせる笛の音で中断された。
そんな彼女の名をてつや以外の四方八方から聞くようになったのは、高校二年の頃。彼女がバレーボールでユースに選ばれたらしい。そんな噂が広まった時だった。
噂ではなく事実だったわけだけど。バレーボールを知らない人間だって、それの凄さくらいは分かる。
「誰か世界史とってる神いない!?」
焦ったように俺らの教室の扉を開けたのはその逆崎さんで。どうやら世界史の教科書を忘れたらしく、女友達に教科書を借りられないか尋ねているらしい。「なんで皆世界史じゃないの!」そう頭を抱えた彼女に、俺は机の中から取り出したその世界史の教科書を差し出していた。
「え」
「どーぞ。俺世界史だから、使って?」
「いやっ、え」
しどろもどろ。「じゃあ福尾貸してあげて」その教科書を受け取ったのは彼女ではなく俺のクラスメイトの女子。
「あー……じゃあ、お借りします」
ペコリ、と彼女は深く頭を下げて「松川もありがとう!」とその友人にもパッと笑った。
タッタッと自分のクラスへ走っていく彼女は少しして後ろを振り返って、ブンブンと大きく手を俺らにふった。
「逆崎は恩を忘れない子だから、福尾なにかいいことあるかもね」
「ほんと?期待しちゃおっかなあ」
ヘラヘラと笑う。「そういえば」
「福尾って確か小柳津と仲いいよね」
「てつや?」
「そ。最近まで彼女いたじゃんね?なんで別れたか、知ってる?」
ひどく冷めた声の彼女に首をふると、ため息まじりにこう答えた。「彼女の嫉妬」
「あんまAを困らせんでって、伝えて」
それは多分、遠回しに向けられた俺への忠告でもあったのだ。
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える(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» ありがとうございます!不定期な更新でしたが読了してくださりありがとうございました(*^^*) (2020年6月7日 10時) (レス) id: ace072b99e (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 完結おめでとうございます!最後のところ、鳥肌が立ってしまいました…素敵な作品をありがとうございました! (2020年6月7日 1時) (レス) id: 534e341e06 (このIDを非表示/違反報告)
える(プロフ) - らぁさん» ありがとうございます!ぜひまたお暇な時に読み返してください(*^^*)伏線や会話の回収などもありますので、いつでも彼らの物語を覗きにきてください! (2020年6月6日 14時) (レス) id: ace072b99e (このIDを非表示/違反報告)
える(プロフ) - BlueMoonさん» コメントありがとうございます!嬉しいかぎりです……!最後まで読んでくださりありがとうございました! (2020年6月6日 14時) (レス) id: ace072b99e (このIDを非表示/違反報告)
らぁ(プロフ) - とても素敵な物語でした!読み進めていくたびに引き込まれてました。また読み返したいと思う作品です。完結お疲れ様でした! (2020年6月6日 0時) (レス) id: 2e4cb704c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:える | 作成日時:2020年1月5日 15時