古蝶の夢 ページ49
「夢やったんかもしれん。全部。ほら、画面の枠とかさ、ありえんくらい6人ってしっくりくるし。企画とかも特にやりづらいこともないし。最初っからこうじゃなかったっけって。ねえ、どう思う?としみつ」
りょうはいつもの笑顔でそう言った。「かもしれん」何も不便はない。彼女がいないことの不信感は日をおうごとに消えていった。
チャンネル登録者が減ることもなく、毎日のように送られてくるリプやコメントもありがたい応援や感想ばかりで、最近はその中に彼女のことを詮索するようなものは一切見当たらない。
もしかしたら、俺達の青春の中に登場した逆崎Aという人物は、俺達の色づいた人生の中に登場した逆崎Aという人物は、全て幻だったのではないか。
「……薄情者」
りょうはひどく静かにそうもらした。「夢でも、それでもいいからさ、一緒にいてくれたらいいのにって思わん?」ああ、そうだなと思う。
「……俺さ、まだAに好きだったって伝えられてないんよね」
好きだった。俺は彼女が好きだったのだ。学生時代、グラウンドの隅っこでたいしてうまくもない素振りを褒めてくれた彼女が。絵になると、恥ずかしそうに口にした彼女が。
無理やり親愛に変えた愛を、今でも男が女に向ける劣情のまじったけして綺麗とはいえない愛として持ち続けることを許されていたらと、今でも俺は夢にみる。
「ははっ、知ってた」
「俺Aはてつやとくっつくとばかり思っとったんやけど。てつやアイツ意気地無しすぎん?」
「てつやは気づいてない。憧れと恋の区別なんてついてないんだよ。あくまで俺達の中で、てつやの中で、Aはヒーローだから」
ヒーロー。どちらともなく苦笑する。
「ヒーローねえ。あいつ、ついこの間しばゆーと喧嘩してたやんか。ばちおこ。めっちゃ怖い顔してた」
「ああ。どちらかっていうと悪役てきな」
「そうそれ。まあしばゆーもそんな感じやったけど」
でもきっと、あの喧嘩は意味のあるものだった。しばゆーだけがあの場で冷静だったことを思いだして、目頭が熱くなる。
「俺さ、アイツと一番仲よかったはずなんだけど」
あいつの異変に気づいたのは、俺じゃなかった。
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える(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» ありがとうございます!不定期な更新でしたが読了してくださりありがとうございました(*^^*) (2020年6月7日 10時) (レス) id: ace072b99e (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 完結おめでとうございます!最後のところ、鳥肌が立ってしまいました…素敵な作品をありがとうございました! (2020年6月7日 1時) (レス) id: 534e341e06 (このIDを非表示/違反報告)
える(プロフ) - らぁさん» ありがとうございます!ぜひまたお暇な時に読み返してください(*^^*)伏線や会話の回収などもありますので、いつでも彼らの物語を覗きにきてください! (2020年6月6日 14時) (レス) id: ace072b99e (このIDを非表示/違反報告)
える(プロフ) - BlueMoonさん» コメントありがとうございます!嬉しいかぎりです……!最後まで読んでくださりありがとうございました! (2020年6月6日 14時) (レス) id: ace072b99e (このIDを非表示/違反報告)
らぁ(プロフ) - とても素敵な物語でした!読み進めていくたびに引き込まれてました。また読み返したいと思う作品です。完結お疲れ様でした! (2020年6月6日 0時) (レス) id: 2e4cb704c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:える | 作成日時:2020年1月5日 15時