6 ページ6
「えらいぼーっとしとんな」
「懐かしいこと思い出して」
「事故んなや」と助手席でタバコをふかす上司。「んなヘマしませんよ」青信号。
「てか車内でタバコ吸うのやめてもらえます？」
「お前の車は禁煙なんか」
「毎度そう言っとると思うんですけど」
ふーっとわざとらしく煙を吐き出す彼に「最悪」と愚痴をこぼす。タバコを吸うことに反対しているのではなく、臭いがこもる車内で吸うのをやめろと言っているだけなのに、いったいなんどこのやり取りをすればよいのか。
「俺は上司やぞ色ボケ娘」
「ほんな歳やありまへんよ」
アクセルを踏む。「ここ、右でしたっけ」
「おん」
ハンドルを回して右に曲がる。「正直な話」
「お前、被害者の話聞いてどう思った？」
「なんや久しぶりの関西弁や言うて喜んではりましたね。それ以外なら、いつか起こるんやないかとも思いました。私は彼を知っとるんで」
「知っとるんならもっとあったやろ」
断定するような言い方。「何が言いたいんですか」駐車場に車を止める。いつもは少しのズレもない駐車が、少しだけ斜めにズレた。動揺。
「不自然や、とか思わへんかったか」
車を降りる。バタンと乱暴に扉を閉める上司に眉をよせた。「ちっとも」
「ほんまに？」
「不自然ってゆーのは知らない女に刺されたのに現場が夜の、彼の所属するチームの寮近くだったりとか、スポーツ選手の彼がただの女にあんな真っ正面から刺される訳ないとか、そーゆーことですかね？」
「そーゆーことや」
「根本的に彼の証言が全て嘘？」
「ちゃうか？」
訪れたのは体育館。彼が所属する会社のものだ。プロとして、彼はバレーボールに触れている。
私をふった彼の選択肢は一つも間違っていない。まるでそう言いたげな結果に苦笑する。正確には少しだけ、ほんの少しだけ嫉妬した。
一度くらい惜しいことをした、未練がある。そんな風に思われてもよかったのに、と。
「ちゃいませんよ」
彼はあまりにも正直がすぎる。嘘をつくときに首に手を当てて笑う癖も、私と別れたことが北先輩や治君達にバレたことだって。
全て彼が正直すぎる故。
「せやからここに来たんでしょう」
侑君を刺したのは──
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 45人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：える | 作成日時：2020年1月6日 17時
