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「こんな真冬に上着んとなにしとんねん、お前は」
ピトッと頬に温かいものが当たる。「あったか」その手の元を目でたどれば、侑君が眉を寄せて立っていた。大きな、手入れされている手。
「……部活見学、てきな」
グラウンド前の階段。目の前ではサッカー部が活動している。
ひんやりとおしりから伝わる冷たさに少しだけ肩を震わせた。「あほう」侑君は部活着の薄着で、手には長袖の部活ジャージが握られている。
「これ着とき」
「優しいやん」
「んで、中入り」
無言。「なんで無視やねん」バサッと乱暴に彼のジャージが被せられた。柑橘系のしつこくない香水の香り。「侑君が思うたより、私に気回してくれるんやなあ思うて」
「なんやと思うてんねん」
「バレー馬鹿」
「あっとるけど!」
「そうやないやん!」と頭を抱える彼にケラケラと笑う。「可愛いげないなあ」ジトッと彼は私を睨んだ。
「モテるんやで、これでも」
「知っとるわ!」
わあっ、と歓声が上がる。右側のゴールの中にボールが転がっていた。「風邪引いてしまうよ」
「こっちの台詞やわ」
「はいはい」
すくりと立ち上がって、彼を体育館の中に押しやる。扉の前まで彼を送り届け、被せられたジャージを押し付けた。「ほな、頑張ってな」
「なんでやねん」
背を向けて立ち去ろうとした私の手をがしりと彼が掴む。不満そうな顔が目にはいった。
「部活見学、してったらええやん」
少しだけ赤く染まった彼の頬。「……邪魔しとうないなあ思うて悩んどってさ。せっかく腹決めてサッカー見とったのに」
「なんで自分の女邪魔や思うんや」
「……侑君は優しいなあ」
それでも、と思う。多分私は彼の中のバレーほど大きな存在にはなれない。私の中でバレーが一番だったように、きっと彼も。
「……なら、隅の方で見学させてもらってもええ?」
「あたりまえやろ!」
パッと輝いた彼の顔に思わず頬がゆるむ。寒さで少し赤くなった彼の鼻を人差し指でつついた。
「赤鼻のトナカイ」
「馬鹿にしとるやろそれ」
ぶすくれて、やり返すように私の鼻をつまんだ彼に笑った。
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作者名:える | 作成日時:2020年1月6日 17時