元カレが女に刺されたらしい【宮侑】 (ページ1)

今日:2 hit、昨日:6 hit、合計:42,777 hit

1 ページ1

私と彼との縁を結んだのは間違いなくバレーボールというものだったけれど、その縁を切ったのもまたバレーボールだった。

「すまん。俺やっぱ逆崎よりバレーのが大事や」

「おん。知っとる」

恋人という関係にあったものの、それは私の一方的な片思いの延長だった。その証拠に付き合ってからもその生活は今までとなんら変わらず、私も本当に彼を好きなのか疑うくらい実感が持てなかったのだから、彼を責めることも出来ない。

周りは私達が付き合っていることを知らなかった。だから一ヶ月ちょっと続いた関係を切るのは容易く、元通り友人になるのにかかった時間はわずか。

一時の気の迷いというにはあまりにもこの想いは強かったけれど、それでも彼との関係に未練というのは一切存在しない。

そんな高校時代の淡い出来事をどうして今になって思い出しているのか。

いたってシンプルな理由である。

「それで？侑君を刺したのは女って事でええの？」

「おん」

呆れとか、そういったものをため息を共に飲み込む。ツンッ、と鼻をくすぐる病室特有の臭いはどうも苦手で、けれどそれを悟られないように表情をつくった。「なんというか」似合わない病院服に身を包んだ彼に目を合わせた。

「いつかこんな事があっても可笑しくないと思ってはいたけれど」

昔から宮侑という人間は好意を寄せられることが多かった。抜群の運動神経に加えこの顔。フレンドリーな性格は周りを引き付けただろうし、事実私も彼が好きだった。

そんな彼の欠点を上げるとするならば、口の悪さとバレー馬鹿というところだろう。バレー馬鹿に関しては、彼の職業から考えると美点でもあるのだが。

それらをふまえて、私はいつかこんなことが起きても可笑しくないのではと思っていたのだ。

「それは酷いで、Aちゃん」

「もうちゃん付けされるような歳やあらへんで。第一まさか病院で君と再会することになるとはなあ」

元カレとの再会場所がまさかの病室。「心臓に悪いったらないわ」どれだけ彼の名前を上司から聞いたとき動揺したか。

その上司は私と彼の関係を知るやいなや、休憩という名の気遣いでこの場にいない。

「俺かて驚いたで。まさかAちゃんが警察やとはな。そんなちっこい体で」

「そら侑君から見たら大概の女の子はちっこいやろけど」

それでも私は一般的に見ても大きい身長ではない。誤魔化すように一つ咳払いをして、義務的な質問を彼に問うた。