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我妻善逸という少年は臆病だった。自らの能力を過小評価し、正しく評価できていない。けれど彼がAの知っている人間の中で一番年相応で、人間らしい。
Aの死を嘆くものは沢山いた。けれど一番分かりやすく参っていたのは善逸である。
隈は濃くなる一方だし、ろくな食事もとらない。けれど稽古はいつも以上に熱心だった。
善逸にとってAは、自分が鬼滅隊であることを忘れさせてくれる唯一の人間だった。Aといる時間だけはただの16歳でいられる。その時間にどれほど救われてきたか。
仕事帰りに甘味処へ連れていってくれたり、頭を撫でてくれたり。炭次郎も伊之助も善逸も、そんな子供が当たり前のように親から受ける愛情から早いうちに離れてしまっていた。
「へ?これがAさんの机の中から?」
Aが亡くなってちょうど一週間たった頃。善逸が渡されたのは黄色のハンカチだった。それは善逸の羽織と同じ模様で、明らかに善逸へのプレゼントだということが分かる。
「間違いねーよ、それはお前のだ」
宇随が善逸にそれを押し付ける。
「入隊祝いだと。ずっと悩んでたみたいだが、お前はよく泣くからな。全く地味だぜ」
宇随は優しく笑う。
Aの最後の贈り物となってしまったそれは彼らの入隊祝い。入隊して随分たつが、Aはずっと悩んでいたのだろう。
善逸にはハンカチ、炭次郎にはお守り、禰豆子には櫛、伊之助には本。
「なんで、なんでAさんなんだよう」
ポロポロと涙をこぼす善逸。そうだな、と宇随は同意してはいけないその言葉に同意してしまいそうになった。
それでも宇随は思う。この世には本当に神というものは存在しないのだなと。煉獄といいAといい、いい奴ばかりが死んでいく。
「Aさんを返せよ」
善逸の声は届かない。
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赫赫 - えっそこで更新停止…!?勿体ない……!!とても面白い作品です!更新して欲しいです! (2021年12月9日 7時) (レス) @page39 id: 33d74645c1 (このIDを非表示/違反報告)
10優 - すんごく面白いです!一瞬で文スト(鬼滅?)の世界に引き込まれちゃいました(笑)更新待ってます。頑張って下さい! (2019年12月4日 1時) (レス) id: 9d99cb2590 (このIDを非表示/違反報告)
六花 - あのお願いがあるのですが、逆崎君の詳しいプロフィールを教えてほしいです!無理ならば大丈夫ですよ。更新いつでもいいので頑張ってください! (2019年10月12日 19時) (レス) id: 1558ece2fb (このIDを非表示/違反報告)
える(プロフ) - ルルナナさん» ありがとうございます(*^^*)不定期な更新ですが、ぜひ逆崎君の物語にもうしばらくお付き合いください。コメントありがとうございました(*^^*) (2019年8月11日 0時) (レス) id: ace072b99e (このIDを非表示/違反報告)
ルルナナ(プロフ) - いつも更新楽しみにしてます!此れからも頑張ってください! (2019年8月10日 23時) (レス) id: f75b5a5c4e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:える | 作成日時:2019年5月25日 23時