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｢…主、｣
私のその名を呼ぶ声色に、不意に心が上がったのを感じた。
『…！センラ！』
夕食が終わり、自室へ戻ろうとしていた時。
私は廊下の先にセンラの姿を見つけると、今まで少し強ばっていたであろう表情筋がやっと緩んだような気がした。
｢…今日はお傍につくことが出来ず、申し訳ございませんでした｣
丁寧な言葉遣いでそういったセンラは、私との距離を詰めることなく深く頭を下げる。
窓から入ってくる少し肌寒い風に、綺麗な金色の髪が吹かれて小さく靡いた。
『…さかたから事情は聞いていたわ。顔を上げなさい』
センラはうらたの次ぐらいに'' 位の差 ''に敏感で、特定の場合にしか言葉を緩めない。
それは昔の頃から変わっていなくて、したがって周りの大人からの信頼も大きかった。
…でも、今ではそれが少し寂しかったり。
｢主、先程の件は如何致しましょう｣
そう耳打ちをしてきた志麻は、センラの方を示すようにアイコンタクトうってきた。
志麻が言う先程の件というのは、きっと'' 兵士について ''の話だろう。
『そうね。…センラ、このあとの予定は？』
｢いえ、なにもありません｣
『なら少し話したいことがあるのだけれど、いいかしら？』
｢承知しました｣
私はセンラの言葉に頷き、自室へ向かうよう再び足を進めた。
外からは月明かりが差し込み、城の内部を優しく照らしている。
｢…主。マフユ様の件で、私からも少しお話があります｣
そう後ろから言葉をかけてきたのは、先程まで別室へと入っていたうらただった。
うらたのその言葉にセンラも何か心当たりがあるのか、ちらりと視線をうらたへと向けている。
『到着の予定時刻を早めるということは既にお父様から聞いているわ』
｢いえ、それに加えてもう一つ。マフユ様からの文書を預からっております｣
『…お兄様から？』
私の脳内は、何故？という言葉で埋め尽くされていた。
明日には此方にお帰りになるというのに、どうしてわざわざ文書などを送る必要があるのか。
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──この時はまだ知らなかったのだ。
あんな悲劇が起こるということを───
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作者名：お餅。 | 作成日時：2020年9月27日 15時
