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Shima. side
俺の質問に、斜め後ろを歩いていた主の歩速が遅くなるのを感じた。
遠くで稽古をしている兵士たちの声がやけに大きく聞こえ、主との間には静寂が流れる。
俺はただ、主からの言葉を待つだけだ。
『…まだ、言えない』
散々渋っておいておきながら告げられた主の言葉に、俺は呆然とした。
｢それは、どうして？｣
『…』
俺の問いに、主は最後まで答えなかった。
それ程俺らに知られたくないことなのか、はたまた俺に知られたくないことだったのか。
もし後者の考えなのならば、きっとさかたが最も適当だろう。
主が弱っているときにいうも一番に主の元へ駆けつけていたのは、悔しくもさかただったのだから。
例え同じ年月を共に主に捧げていたとしても、やはり心情差が出てしまうのは仕方の無い事なのだろうか。
…俺はいつだって、主が一番なのに。
そんなことを考えていると、後ろを歩いていた主は俺の袖の裾をぐいっと引っ張り、そのまま俺の身体は主の方へと引き寄せられた。
『…今は、まだ。上手く言えなくて…。でも、私もひとつ、聞いてもいいかしら』
｢…ん？ええよ、なに？｣
『…志麻は、私に何故剣を持つのかと問うたわ。…じゃあ、志麻は？志麻はなんの為に剣を持つの？』
視線は絡まなかったが、主のその言葉はしっかりと俺の耳に届いた。
俺の服の袖を握る力がぎゅっと強くなり、主の手が微かに震えているように感じた。
｢…そうやなあ。ほんまは'' この国のために ''って言うのが、他者から見ればきっと満点の答えや｣
俺はそこで言葉を区切ると、くるりと後ろを振り返って、主の瞳を今度はしっかりと捉えた。
深い青色の瞳が、不安げに揺れているのが見て取れる。
｢…でもな？主。俺のこの剣は、確かにこの国から貰ったものや。この国を護る為に、命を捧げて誓った身やからな｣
『ええ、…そうね』
｢ただ、俺は王宮兵士という名の以前に、主…Aの側近兼護衛役や。確かに、これは俺のお父様が始まりとして決めたこと。でも、俺は今まで。自分の意思で、Aの傍についてたで｣
全ての稽古を終了と知らせる鐘の音が、王宮全体に響き渡る。
季節の変わり目を感じさせる、少し肌寒い風が、主の真っ白な髪の毛を靡かせた。
｢…俺のこの剣はな、Aを護る為にあるんよ。だから俺は今、ここに居る｣
それが俺の答えやで、主。
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作者名：お餅。 | 作成日時：2020年9月27日 15時
