未完成のPiece7【アイナナ】 (ページ25)

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それからユキには先に外に出てもらい、
後部座席でドレスに着替えた。
…もちろんユキのご指定のドレス。

『どう？』

「いいんじゃない？」

手鏡で確認してみるがやはり気になるのは頭の上。

『これ、何とかならない？』

「それ無くしたらAじゃない」

『やだよ。何とかして』

はいはい、と面倒くさそうにヘアスプレーをかけるユキ。
持ってるなら最初からやってよ、と出そうになるが堪えた

できた、という言葉を聞き、
再度手鏡で頭を見てみると双葉が違和感なく見事に潰れていた。

やればできるじゃん、と思いながら周りを見渡した。

『で、ここどこ？』

「海」

『それはわかるんだけど、
ここで私は何すればいいの？』

「もちろん、歌うんだよ」

そう言って渡されたのはイヤモニとピンマイク。
しかもここはどこかも分からない海。
逃げ場はない…卑怯すぎる。

『曲は？』

「何曲か流すから歌って」

そう言って固定カメラを数台設置したユキは、
パソコンを操作し始めた。

まだ薄暗い海辺には私とユキ以外に人はおらず、
繰り返す波の音を聞いていると、
イヤモニから音が聞こえた。

『砕けた心が濾過できなくて
涙はそっと枯れてゆく』

なんだかMV制作をしているようで、
少しだけ懐かしく感じた。