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『万さんありがとうね、じゃあ』
「うん、壮五くんもしっかり休むんだよ」
「…あ、はい。ありがとうございました」
結局お兄様は空の上状態のまま寮についてしまった。
万さんの車が見えなくなってもお兄様はずっと一点を見つめている。
『入らないの？』
「え、あ…ごめん。入るよ」
靴を脱いで、階段を上がって
跡数段でこの空気ともお別れだ、と思っていた。
「ねぇ」
『なに？』
口から出た声は、思ったよりも低かった。
「ユキさんの家によく行っているけど、
なにかあるの？」
『何もないよ』
「じゃあなんで…、
今年に入ってから頻繁に通ってるんだ」
『別に何でもいいでしょ』
この活動はなるべく他の人には知られたくない。
それがたとえお兄様だとしても。
…これ以上過度な期待を寄せられたくないんだ。
もういい？、と無理やり話を終わらせようとすると
お兄様は首を横に振った。
「まだ話は終わっていないじゃないか。
…どうしていつもAは隠そうとするの？」
『逆に、なんで教えなきゃいけないの』
ぷつん、と今まで抑えていた何かがはじけて
思ってもない言葉がどんどん口から出ていく
「それは、僕は…Aの…」
『家族面しないで…！
私は、大神Aよ。
逢坂なんてもう捨てたの、
だから…』
「Aさん…？」
私の口を止めたのは、七瀬さんだった。
「それ以上はダメです
…戻れなくなっちゃう」
天さんとの関係を私たちに重ねているのだろうか
七瀬さんの目は少しうるんでいた。
戻れなくなる、か。
私は戻りたいなんて思ったことなんてない。
そのために逢坂を捨てたんだから。
『戻らないよ、ね？
＿＿逢坂さん』
「A…」
だから、そんなさみしいような目で見ないで。
音楽と生きるって、決めたんだよ。
家を捨てたあの時から。
＿＿＿＿＿エピソード32 家族
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作者名：ReePhantom | 作成日時：2024年1月10日 18時
