羅刹の幻影は囁く part10

【270】 ページ13

家の方に連絡を送ると、瞬間的に「いまからそちらに向かいます！！！」と奥さんの声が響き、すぐ切れた。多分本当の意味ですぐ来るだろう。


『飼い主さん、すぐ来るって。多分すごいお礼言われるよ。本当に心配していたから』
北斎「そっか」


よかったねといいながら子猫の頭をなでる。
瞳を輝かせて、本当に子猫の家族が見つかった事に安堵している。


『北斎に見つけて貰えてよかったな、お前』

北斎「そうなの？」

『だって、この子の家族が迎えに来てくれるって事、自分のことみたいに喜んでいるからさ。だからかな、北斎にそんなに懐いているのは。北斎の事をやさしい人だって、子猫も分かっているんだろう』

北斎「……そう、よかった」


ありがとう、とお礼を言って頭をなでる北斎。
そんな姿を見ていたら、こっちまでほんわかするというか…穏やかな気持ちに包まれる。



刹那、「みーちゃん！」と叫ぶ声にビクリとする。
声の方を見ると、車から降りた奥さんが私達に近づいていた。すると北斎の腕の中にいた子猫が奥さんの元へ駆け出した。



女性「あぁあ！よかった！ほんとうに、よかったぁ……」



涙をポロポロ流し、子猫を抱きしめる。子猫も「ニャァア」と甘えた声を慣らし、奥さんの頬をペロペロとなめていた。



北斎「……本当に、よかった」

ボソリと隣で座る北斎が、その光景を見て呟いた。



北斎「帰りを待ってくれている家族がいて、本当によかった」


その言葉は北斎の本心だろう。きっと、心から感じて吐かれた言葉だ。
だが、その声からは少しのもの悲しさを感じたのは…きっと、気のせいではないだろうな。

【271】→←【269】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す