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バタンッと、乱暴に事務所の扉を閉めてしまい、眠っていたであろうリックを驚かせてしまった。だが、それでもこの苛々を収まらない。
『クソッ』
悪態を吐き、鞄をその辺に放り投げるとソファに倒れようとするが、それを押しとどめ、洗面所へ向かうとガシガシと痛むのも気にせず、野郎に触れられた場所を洗い落とす。
『あぁああ！！嫌だ、いやだ！！あの目つき！！』
思い出すだけでイライラする。
なんだ、あの顔！“女は大抵これをすればいいだろう？”って目しやがって！！
媚びうるだけの雌猫どもと一緒にするんじゃねぇよ！
ダーッと流れる水を止め、顔をガシガシとこすり、タオルを放り投げる。
顔が良い奴はこれだから、いやだ。
あぁいう事をして胡麻をする奴も嫌いだ。
奴にとってはあれが普通かもしれないが……そもそも、あの笑顔。
『気持ち悪ぃ』
まるで作られたもんだ。
ずっと笑みを張り付けていやがる。
……BAEの燕 夏準。
あれは依織さんと同等レベルに食えない奴だ。
できれば関わりたくない人種BEST3に入る。
『…リック、ごめんよ』
驚かしたのにも関わらず、心配げにすり寄って来てくれる小さな相棒。それを手で受け止め、背をやさしくなでる。
こんなことで苛々してしまうとは……アレが近いのかもしれない。
だとしたら、外回りの仕事は抑えた方がいいな。
『…………………ほしいもの、ね』
先ほど、奴が言っていた言葉を繰り返し、ソファになだれ込む。
欲しいものが簡単に口に出せる程、私の立場は強くはないのに。
……知っててか、知らずにか………いや、どっちにしろこの気持ちは他人には分からない。
この、惨めな忌まわしは……。
昨夜の仕事の疲れと、さっきのイライラが相まって妙な眠気が沸き起こる。
リックを撫でながら、その睡魔の波に身を任せ、私は瞳を閉ざした。
あぁ、きっと＿＿＿＿今日は【いやな夢を見る】
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作者名：テルミヤコウジ | 作成日時：2021年6月29日 19時
